3月11日-。忘れられない特別な日に、日本中が注目するマウンドへと向かった。WBC1次リーグのチェコ戦に先発した佐々木朗は一回に失策も絡んで先制点を与えたが、最速164キロの直球と落差のあるフォークで打者を打ち取った。四回2死一塁の場面で球数制限に達して降板。「四球などで球数が増えて四回を投げ切れなかったが、最少失点で戻れたのは良かった。集中して投げられた」。8奪三振の好投だった。
栗山監督は、東日本大震災の被災者でもある21歳に先発を託した。「ここ数年、コロナ禍などでいろいろな人が大変な思いをしていた。震災も時間がたって消えるわけではない。一瞬でも元気になったり、笑ったりしてもらいたい」との思いからだった。
津波で自宅が流され、父と祖父母を亡くした。当時9歳。当たり前の日常が一瞬にして奪われた。避難生活の心の支えは野球だった。「野球をしているときが一番楽しかった。夢中になれる時間があったおかげで、つらいときも頑張れた」と振り返る。周囲に支えられ、生きてきた少年はやがてプロ野球選手になり、昨季は史上最年少で完全試合を達成。日本代表入りを果たした。
「今は、勇気や希望を与える立場にいる」
目立つことは、そんなに好きではない。しかし、震災を知る自分が活躍し、注目されることで、風化を防ぎ、被災者に夢を与えることができる。「チームが勝つためにやっていきたい」。口数は少ないが「令和の怪物」は、秘めた思いを胸に国際舞台で腕を振った。(神田さやか)