「リアル書店」絶滅の危機 Z世代が提案する生き残り策

松山市にある明屋書店中央通店の店内
松山市にある明屋書店中央通店の店内

電子書籍やECサイトの普及などによって、実際に店舗を構える「リアル書店」が苦境に立たされている。来店者数や売り上げ増加を図るにはどうすればよいのか。専門学校生たちがデータ分析を行い地元書店に提案する取り組みが松山市内であった。書店側が「特効薬はない」と悩む現在の苦境。学生たちは分析を行ったうえで、活字に親しみを持つ人を増やすためのアイデアを披露していた。

地元の老舗書店に提案

授業の一環としてデータ分析を行ったのは、河原電子ビジネス専門学校(松山市)ITエンジニア科の学生たち。データミックス(東京都千代田区)と、三井住友信託銀行松山支店が連携し、地元の松山市に本店を置く「明屋(はるや)書店」に提案を行った。

明屋書店は昭和14年に松山市で貸本業として出発した老舗書店。長年、市民に親しまれており、四国や九州などにも店舗を展開している。

書店を取り巻く環境は厳しい。インターネットの発達で電子書籍や、書籍・雑誌・コミックのネット販売が拡大しているほか、活字離れ、本離れといった課題も背景にある。このため、「町の本屋さん」は減少傾向が続いている。

明屋書店の紺野彰社長は書店の苦境について、「業界で取り組んでいるが、特効薬は見つかっていないというのが正直なところだ」と語る。

アンケートの分析結果を発表する増井輝さん =2月16日午後、松山市
アンケートの分析結果を発表する増井輝さん =2月16日午後、松山市

ネットアンケートで調査

学生たちのプロジェクトは令和4年6月からスタート。学生たちは、同年12月に国内在住の不特定者にインターネットでアンケートを実施した。436人の回答を得て、書店に求めるニーズ▽書店の競争力を決定づける要因▽顧客セグメント(集団)による要因の変化-などを分析。例えば顧客セグメントでは(書店にとって)「優良」「準優良」「一般」「低購入」に分けるなどした。

今年2月には学生を代表して明屋書店本社で、同科AI・データサイエンティストコース3年、増井輝さん(22)が経営陣を前に分析結果を発表した。

増井さんは、顧客セグメント分析の結果として、「書店にとっての優良顧客は書店だけでなくECサイトでも本を購入している。また、ECサイト、電子書籍の購入頻度は増えている」と傾向を説明した。

幼少期から本を

リアル書店を訪れている顧客は、どんなところを好んでいるのだろうか。増井さんは分析結果として「落ち着いた雰囲気や幅広い品ぞろえ、立ち読みできること」などをあげた。

増井さんは「本を直接探せるというところが一番の魅力」と指摘。書店にはまだ潜在的ニーズがあるとしたうえで、「生き残り策として、活字に親しみを持つ人の母数を増やすことだ」と語った。

そして、具体的な手法として「来店頻度、購入頻度を上げるために、人気作家の書籍を試し読みできるスペースを設けたり、漫画の1巻だけを読めるようにしたりという工夫はどうか」と提案。「若い世代が紙の書籍から離れることが予想される。ゲームなど幼少期の遊びで、本に親しむ環境づくりが大事なのではないか」と話していた。

分析結果を聞いた紺野社長は「提案をありがたく受け止め、役員、店長で共有して活用したい。紙の書籍の価値をどう客に伝えるか、書店に来る動機をどう作るか大事だと思っている」と話していた。(村上栄一)

会員限定記事会員サービス詳細