迫る南海トラフ地震 連動する震災被害をどう防ぐか

東日本大震災と南海トラフ地震のプレートの特徴
東日本大震災と南海トラフ地震のプレートの特徴

東日本大震災から12年たった。一方、南海トラフ地震発生への緊張感は刻一刻高まり、地震研究者から「Xデーは2035年」との声もあがる。こうした状況を受け、政府は、南海トラフ地震の想定震源域で異常を検知した場合、警戒を促す情報を公表する取り組みを始めた。迫る巨大地震にわれわれはどう備えるべきか。同地震の歴史や特徴から対策を考える。(編集委員 北村理)

南海トラフ地震の警戒時期が2035年とされる背景には同地震の発生サイクルがある。2035年は前回の昭和東南海、南海地震から約90年。過去の発生サイクルは90~265年で、最短の90年をあてはめると2035年ごろとなる。

最短のサイクルをあてはめる理由は昭和の2つの地震の特異性がある。南海トラフ地震は東海、東南海、南海の震源域に分かれており、毎回2~3つ連動するが、昭和の2つの地震はそれぞれ単独で起こり、規模も小さく、東海が現在まで起きていない。このため、相当のエネルギーが蓄積されており、発生が早まるという見方なのだ。

■連動性への対策がカギ

こうした南海トラフ地震の連動性を逆手にとり、気象庁は事前避難を促す取り組みを令和元年から始めた。同庁は震源域のプレート(岩盤)境界でマグニチュード(M)7以上の地震が起きるなど異常を検知し、地震が連動する可能性がある場合、津波を警戒すべき「事前避難対象地域」に対し1週間程度安全な場所への事前避難を促す。

対象地域のひとつで、最大津波高34メートルの想定が政府から示された高知県黒潮町は「県が被害を受けていない状況では、各家庭ごとに避難計画が周知されているため町民の一斉避難は行わない」としたうえで、高齢化率の高さを踏まえ、避難困難者を福祉避難所に収容するなど高齢者中心の対策を検討している。

■地域地区で異なる被害

注意すべき南海トラフ地震の連動性による被害の特徴は、東南海、南海地震が時間差で連動した場合、大阪など近畿各府県がM8クラスの地震に2度襲われる可能性があることだ。

連動性以外の特徴として留意すべきことは、南海トラフ地震を起こすプレートが、急角度で日本列島の下に沈み込み東日本大震災を起こしたプレートと異なり、角度が浅いことがある。このため、地震の揺れによる被害は太平洋沿岸部から日本海側に及ぶ。昭和以前の地震では各地の軟弱地盤で液状化が起きるなどし家屋が倒壊。岡山や鳥取、島根などで犠牲者がでており、対策が必要だ。

避難対策が専門の片田敏孝・東京大特任教授は「東日本大震災の印象から被害の大きさに目が行きがちだが、被害の様相は地域、地区ごとの特徴がある」と指摘。対策の好事例として黒潮町の避難計画をあげ、「想定津波高34メートルにとらわれることなく、各地区ごとの地理的条件や被害の特徴を踏まえたうえで、高齢者の有無など各家庭の事情を積み増した地区ごとの避難計画を丁寧に具体化している。町は高齢者対策で地区を支援している。住民、地区と町の役割分担を明確にすることで町全体で共同体意識を育み、いつでも避難できる良い緊張感を生んでいる」と評価している。

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