AYA世代の困難理解を、啓発週間でがん患者訴え

子育てをしながらがんと闘う牛島沙耶華さん(右)と臨床心理士の白石恵子さん=福岡市の九州がんセンター
子育てをしながらがんと闘う牛島沙耶華さん(右)と臨床心理士の白石恵子さん=福岡市の九州がんセンター

3月4~12日は「AYA(アヤ)世代」と呼ばれる15~39歳のがん患者の現状を、支援団体などが社会に発信する啓発週間。この期間に合わせ、九州がんセンター(福岡市)も患者の支援体制の充実を求めて活動している。AYA世代は進学や就職、出産といった人生の転機と闘病時期が重なり、患者は多くの困難と将来の不安を抱えながら生活を送っている。

九州がんセンターで治療中の牛島沙耶華(さやか)さん(39)=福岡県那珂川市=は35歳のとき、舌がんと診断され、その後咽頭に再発。手術は4回に及び、約3カ月の入院を2回繰り返した。最初の手術のとき、2人の息子はまだ3歳と1歳だった。

 九州がんセンターで掲示されているAYA世代のがん患者への応援フラッグ
九州がんセンターで掲示されているAYA世代のがん患者への応援フラッグ

手術で声帯を切除して声を失った。欠損部の修復のため体の他の部分を移植し、頸部(けいぶ)には呼吸をするための穴を開けた。記憶が曖昧になるほどショックが大きかったが、「子供たちのために生きることを諦めない」という思いが治療の原動力だった。

両親がサポートしてくれるが、両親も仕事があり、入院中、息子たちは午前6時半から夕方まで1日12時間近く保育園で過ごした。「頑張ってね」と励ましてくれた息子たちだったが、後になって長男は「本当は寂しくて涙が出た」と打ち明けた。「両親からは育児の大変さを一切聞かなかったが、想像すると本当に大変だったと思う。子供たちにも寂しい思いをさせてしまった。退院後も外来治療には1日数時間かかり、院内や病院そばに子供を預けられる場所があればと思う」と語る。

美容師でもあり、今後も仕事を続けたいと昨年新たな資格を取得した。電動式人工喉頭を使った発声も努力して習得した。「アクティブに思われるかもしれないが、またがんが大きくなり、命がなくなるかもしれない。形に残せることや人の役に立つ仕事がしたい」と力を込める。一方で「外見も変わり、健康だったころを思い出すとつらくなる。いろんな患者がいて、抱えている困難や求めることが異なることを理解してほしい」と訴えた。

九州がんセンターの臨床心理士で、啓発週間「AYA WEEK 2023」に副実行委員長として参加する白石恵子さん(45)は「この世代は仕事も子育てもあり、治療をしながら社会に戻っていくが、支援体制は十分ではなく、当事者が頑張って耐えているのが現状」と語る。例えば高校生を対象とする院内学級がなく、勉強の遅れがその後の進学や就職に影響したり、牛島さんのケースのように親が治療中に子供を預けられるような場所も多くの病院にはない。患者は若く、経済的な問題も大きい。

支援団体によると、1年間に新たにがんと診断を受ける患者のうち、AYA世代は約2万人。全体の約2%にとどまることから患者の声が届きにくく、教育や就労支援は限られた自治体でしか実施されていない。

啓発週間にあわせて九州がんセンターは、医療従事者向け講演会や啓発用うちわの配布などを企画。福岡ソフトバンクホークスやアビスパ福岡にも協力を呼びかけ、院内に患者への応援フラッグを掲示した。

期間中は全国の医療機関や支援機関など約75団体が啓発イベントを行い、企業や学校などを含め約120施設が応援フラッグを掲示している。11日には経験者らがオンラインで「大交流会」を開く。12日以降のイベントもあり、詳細はホームページ(https://ayaweek.jp/2023/)で公表している。(一居真由子)

AYA世代 Adolescent and Young Adult(思春期・若年成人)の頭文字をとったもので、主に思春期(15歳~)から30歳代までの世代を指し、特にがん治療の現場で用いられる。

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