鬼筆のスポ魂

日ハムに〝寄付〟という名の3億円超の厳罰、新球場問題の裏に何が 植村徹也

日ハムの新球場「エスコンフィールド北海道」(三浦幸太郎撮影)
日ハムの新球場「エスコンフィールド北海道」(三浦幸太郎撮影)

全国の野球ファンがWBC開幕に熱狂している舞台裏でプロ野球界では稀(まれ)に見る、極めて理不尽な裁定が下された。プロ野球の日本ハム球団が事実上のペナルティーとして支払う3億円超の「野球振興基金」だ。

日本ハムの新球場「エスコンフィールド北海道」のファウルゾーンが規定より狭い問題で、球団と日本野球機構(NPB)の間で調整が行われていた。結果として球場改修案が免除される代わりに球団が「野球振興のための基金」としてNPBに3億円超の〝寄付〟を行うことで着地。6日の実行委員会では日本ハムは「野球界に混乱を招き、ファンの皆様、関係者各位に多大なご迷惑をおかけしましたことを謹んでお詫び申し上げます」と謝罪した。

〝問題〟が表面化したのは昨年11月7日に行われたプロ野球12球団による実行委員会だった。日本ハムが今季から開業する新球場の「エスコンフィールド北海道」のファウルゾーンのサイズが一部球団から「規定を満たしていない」と指摘された。公認野球規則では本塁からバックネット側のフェンスまで60フィート(約18メートル)以上が必要とされているが、15メートルほどしかなかった。この段階で工事の進捗は95%を超え、完成間近の状況だった。

会議の中で「規則違反」を指摘した一部球団は①問題の責任をとって球団オーナーか球団社長の辞任②2024年シーズン以降の球場改修案の提示-を今季の新球場使用の条件として提示した。日本ハムは川村浩二球団社長が辞任し、3月17日付で小村勝取締役が球団社長に就任する。残るは球場改修案だったが、免除される代わりに3億円超の〝寄付〟を行う。これを事実上のペナルティーと言わずして、他に表現はない。わずか3メートル足りないだけで球団社長辞任&3億円超の〝寄付〟とは…。重すぎる処分を球界は下した。

そもそも「60フィート以上を必要とする」と書かれた公認野球規則は大リーグの公式規則を翻訳したものだが、原文では「recommended」(推奨される)と書かれていて、日本ではこの箇所を「必要とする」に〝誤訳〟されたと指摘する関係者もいる。大リーグでは30球団中28球団の本拠地が60フィートを守っておらず、50フィートを切っている球場もある。「誤訳でもなんでも規則違反は違反」という声もあるが、では日本ハムがなぜ新球場の設計を米国テキサス州に本社を持つ業界最大手に依頼したのか。

新庄監督が〝規則違反〟発覚時に話した言葉がすべてだ。「ただひとつ言えるのはファンの方たちが一番喜ばれる、そういう気持ちで作った球場というのは分かってほしい」。メッツやジャイアンツでプレーした指揮官は新球場の趣旨を理解し、親和性を感じた。フィールドに出来る限り近いスタンドで迫力ある打球音や選手の発する声をファンに届けたい…というファンファーストの考え方だ。

日本ハムの〝挑戦〟は高い代償を支払う結果となったのだが、実は球界には驚くべき流れがある。一部の球団からは「やり過ぎ」という声が漏れるほどの厳罰を下した野球界には今オフにも野球規則を改訂する動きがある。60フィートを「必要とする」という文言を「推奨される」に〝訂正〟するのだ。将来的には大リーグの流れに倣い、遊び心満載の魅力ある球場建設や改修をしていく…という。わずか9カ月後には〝合法〟になる新球場が今回、どうして厳罰の対象になるのか…。

さらに言うならば、ある関係者によると、日本ハムは事前にNPB関係者に新球場の平面図を見せ、本塁からバックネット側の距離も説明。了承を得ていたとの情報がある。それが一部の球団の指摘で180度覆った。いったい、その裏には何が潜んでいるのか。一連の流れは理不尽と言わざるを得ない。日本ハムは30日に「エスコンフィールド北海道」でこけら落としの楽天戦を迎える。

(特別記者)

【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) 1990(平成2)年入社。サンケイスポーツ記者として阪神担当一筋。運動部長、局次長、編集局長、サンスポ特別記者、サンスポ代表補佐を経て産経新聞特別記者。岡田彰布氏の15年ぶり阪神監督復帰をはじめ、阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。

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