京都市の女子大学生が劇薬のタリウム摂取により殺害された事件で、殺人容疑で逮捕された知人の不動産賃貸業、宮本一希容疑者(37)=京都市左京区=が、事件当日に女子大生宅のマンションを複数回出入りする様子が付近の防犯カメラに写っていたことが9日、捜査関係者への取材で分かった。容疑者が何かを手に持って出ていき、手ぶらで戻って来る姿も確認。大阪府警は犯行の証拠隠滅を図った可能性があるとみている。10日で容疑者逮捕から1週間。府警は容疑者の事件前後の行動やタリウムの入手経路など全容解明を急ぐ。
「搬送されてきた女性の意識レベルが不明で、事件かもしれない」。昨年10月12日午後。大阪府内の総合病院の医師から府警に通報が入った。
心肺停止状態で運ばれてきた立命館大3年、浜野日菜子さん(21)の吐瀉物(としゃぶつ)や尿からは成人の致死量(約1グラム)に達するタリウムが検出。タリウム中毒による重度の呼吸不全で3日後に死亡した。浜野さんの自宅からこれまでタリウムは検出されず、両親は府警に「娘は先々の予定があった」と証言。自殺の線はなく、府警は他殺として捜査に乗り出した。
タリウムは体内に吸収されやすく、摂取した場合、症状が表れるのは数時間後。そこで、府警は浜野さんが病院に搬送されるまでの11日夜から12日朝の動きを徹底的に精査した。
2人が11日夜に外食先から浜野さんの自宅に戻るまでの周辺の防犯カメラ映像の確認や2人がいた飲食店の従業員に聴取。専門家の所見も踏まえ、浜野さんがタリウムを摂取した時間帯を、容疑者と2人きりで自宅で酒を飲んでいた「12日未明」に絞り込んだ。
仕事ではなく「ゴルフ」
さらに府警が着目したのは容疑者の事件前後の行動や経緯説明の不自然さだ。
府警によると、容疑者は12日朝に浜野さんの両親に連絡し、「仕事があるため病院に連れていけない」と話したという。しかし、両親に浜野さんを引き渡して実際に向かった場所は京都市内のゴルフ練習場だった。
また、任意の事情聴取では「12日未明に浜野さんがせき込み出し、看病していた」と説明していたが、両親に連絡してから迎えに来るまでの短時間の間、1人でマンションを複数回出入りする様子も防犯カメラに写っていた。府警は容疑者が2人きりで飲酒していた際に酒にタリウムを混入し、犯行の痕跡を消そうとしていた可能性があるとみている。
近畿大の小竹武教授(医療薬剤学)は浜野さんの尿などから致死量に達するタリウムが検出されていることから「体内に吸収されている分があったと考えると、実際はさらに多量のタリウムを一気に摂取し、急性タリウム中毒に陥っていたのでは」とする。
入手経路は…
直接証拠がない中、タリウムが投与されたとする時間帯の第三者の関与を徹底的に排除して逮捕に踏み切った大阪府警。甲南大の渡辺修特別客員教授(刑事訴訟法)は「容疑者と浜野さんのやり取りも含めて、警察は慎重に捜査し、逮捕にこぎ着ける材料をそろえてきたのだろう」と推測。「事故死、病死、自殺のいずれの可能性もなく、タリウムを摂取した時間帯に一緒にいたのは容疑者しかいないという状況証拠は有力な立証材料となる」と話す。
タリウムは現在は厳格な規制下に置かれ一般では入手困難となっており、渡辺氏は「今後、タリウムの入手経路が明確になれば犯人性のさらなる裏付けになるだろう」としている。