ソーシャルQ&Aサイト「Quora」の創業者が、チャットボットが質問に答えてくれる新システムの開発を進めている。当初からAIの活用を模索したが“やむを得ない代替案”として人力に頼ったというQuoraは、ジェネレーティブAIの時代にどのような進化を遂げるのか──。『WIRED』エディター・アット・ラージ(編集主幹)のスティーヴン・レヴィによる考察。
人間(またはロボット)の次の世代は、いつの日か2023年2月に起きたことを振り返り、コンピューターと人々のかかわり方における転換点だったと考えるかもしれない。
グーグルの最高経営責任者(CEO)のスンダー・ピチャイが2月6日(米国時間)、同社の会話型AI「LaMDA」をベースにした新たなチャットボット「Bard」を発表した(さらに大規模言語モデルのスタートアップであるAnthropicに4億ドルを投資したという)。その翌日にはマイクロソフトが、OpenAIの会話型AIとして注目されている「ChatGPT」の技術を融合した検索エンジン「Bing」の新しいバージョンを発表している。
ほとんどの場合に質問の答えを得るまでの時間を短縮できるという点で、インターネットの最も強力なアプリケーションである検索にとって、人工知能(AI)を活用したシステムは極めて重要な“部品”となった。
それが意味することについての議論はこれから延々と続くので、覚悟しておく必要がある。しかしわたしは、あまり大きく扱われていないあるベータ版の製品について深く考えた結果、アリスがウサギの穴に落ちたときのような不思議な感覚に、すでに陥っている。
その製品とは、2022年12月にソフトローンチされ、2月に入って一般公開されたチャットボット「Poe」である。しかもPoeを生み出したのは、なんとソーシャルQ&Aサイトを運営するQuoraなのだ。
Quoraの奇妙な方向転換の理由
Quoraのプラットフォーム「Quora」は14年の歴史を持つソーシャルQ&Aサイトで、ユーザーがほかのユーザーの知識を活用することで答えを見つけられる。PoeでもQuoraと同じように質問を入力し、答えを待つ。
その名称が「Platform for Open Exploration」の略で、決して有名な怪奇小説作家の名前を指しているわけではないというPoeの場合は、ChatGPTやAnthropicの「Claude」のようなテキスト生成アルゴリズムを使って回答を提供する。人間が質問を熟考して回答する必要がないので、答えは瞬時に返ってくる。
これはソーシャルネットワークとしては奇妙な方向転換のように思える。しかし、Quoraの共同創業者兼CEOのアダム・ディアンジェロに話を聞いたところ、彼が高校時代にクラスメイトのマーク・ザッカーバーグといくつかのプロジェクトに取り組んでいたころから、すでにAIの可能性に没頭していたことを指摘された。
「本当にワクワクさせられることでした」と、後にザッカーバーグが立ち上げたフェイスブック(現在のメタ・プラットフォームズ)に入社したディアンジェロは言う。フェイスブックでの最高技術責任者(CTO)の地位を捨てて2009年にQuoraを立ち上げたとき、AIはまだ十分に進化していなかった。このため人間を使って質問に答えることは、やむを得ない代替案のようなものだったのである。
「当時、AIをうまく機能させることは本当に、本当に大変でした」と、ディアンジェロは語る。「しかし、そこにはインターネットを通じて人と人をつなぐという、未開拓の大きな可能性がありました。だから、まだ準備が整う前にうまく機能するAIをつくり出そうとして悩む代わりに、世の中のほかのすべての人々の知識にアクセスできるようにすればいいのでは、と考えたのです」
それが結局、かなりいいアイデアになった。Quoraはフェイスブックのような巨大企業にはならなかったが、ディアンジェロによると月間ユーザー数は3億人を超えるという。21年後半には、同社がパンデミック前から評価額が40億ドル(約5,200億円)の可能性がある新規株式公開(IPO)を準備していると大きく報道された。
一方で、最近の広告不況でQuoraは23年1月末に一部の従業員を解雇している。それでもディアンジェロによると、同社のサービスにはこれまで以上に多くの質問が寄せられており、また低迷している広告市場も回復に向かうだろうという。