いきもの語り

独特の風貌…東京で絶滅危惧 トビハゼの保全続ける葛西臨海水族園

葛西臨海水族園でトビハゼの飼育や保全活動に携わる遠藤周太さん=2月10日、江戸川区(橋本昌宗撮影)
葛西臨海水族園でトビハゼの飼育や保全活動に携わる遠藤周太さん=2月10日、江戸川区(橋本昌宗撮影)

春になると、干潟の上をぴちぴちとはいまわる一風変わった魚がいる。国内では東京湾を生息域の北限とする「トビハゼ」だ。東京湾では沿岸部の開発が進み、干潟自体が減少してきたことに伴い、住む場所を追われ姿を減らしてきた。そんなトビハゼを守ろうと、湾奥部に位置する葛西臨海水族園(東京都江戸川区)は平成元年の開園以来、保全に取り組んでいる。

「トビハゼが生息する場所には、いろいろな条件があるんです」。同園でトビハゼの保全や飼育に携わる遠藤周太さん(33)はこう明かす。

まず、場所は泥の干潟である必要がある。トビハゼは穴を掘って巣を作るため、砂では崩れてしまうからか、すみつかないという。そして、巣穴を泥の中に掘るにもかかわらず、満潮時には水没する干潟を好む。さらに「満潮時はヨシなどの植物や護岸の壁など、つかまって水をやり過ごすことのできる環境も不可欠」(遠藤さん)なのだ。「魚」ではあるが、水中を泳ぎ回ることはほとんどなく、泥の上を動き回って小さいカニやゴカイを食べる。

掘った巣は何に使うのかといえば「繁殖」だ。巣は雄が口で泥を運び、深さ20~30センチに掘って作る。奥はU字型に上向きに曲がって行き止まり。ここが卵の「部屋」だ。遠藤さんは「時期が来ると雄はダンスをするなどして雌を誘うが、雌は卵を産むとどこかに行ってしまい、卵の世話は雄が担当する」と説明する。

葛西臨海水族園で飼育されているトビハゼ(東京動物園協会提供)
葛西臨海水族園で飼育されているトビハゼ(東京動物園協会提供)

雄は外から口に新鮮な空気を含んで巣の上向きの部分に供給する。水没した巣の中で卵のある場所だけに空気がある状態を保つ。そして雄がその空気を排出して卵が水につかると、孵化(ふか)が始まるという仕組みだ。遠藤さんは「頭の上に目が飛び出ているなど見た目もコミカルですが、動きや習性も独特で面白いんです」と笑う。

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多くの川が流れ込み遠浅の東京湾は、江戸時代には多数の干潟があったが、沿岸部の埋め立てなどで環境は激変。現在の都内部分では、荒川の河口部分などに点々と残っているだけだ。干潟の減少に伴いトビハゼも姿を消し「都レッドリスト(本土版)」で絶滅危惧種に指定されている。

葛西臨海水族園は、元年から保全に取り組み、繁殖にも挑戦。16年には日本で初めて、水槽内での自然産卵による繁殖に成功した。遠藤さんは「装置で潮の満ち引きを再現するなど、工夫を重ねて成功したと聞いている」という。

また、15年から園近くの人工干潟でトビハゼの生息調査を開始したほか、23年からは周辺の博物館などと連携して「トビハゼ保全施設連絡会」を結成。東京湾全域での生息調査を協力して行うようにもなった。

あわせて「東京湾のトビハゼ」を知ってもらう啓発活動も展開。新型コロナウイルス禍では人を集めることができないため、動画を配信するなどして関心を高めようと努めてきた。遠藤さんは「東京にもこんな面白い魚がいるということを多くの人に知ってもらえたら」と話している。(橋本昌宗)

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