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知られざる日本のサイバー防衛力 葛城奈海

葛城奈海さん
葛城奈海さん

「正論新風賞」に輝いたNTTチーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジストの松原実穂子氏を講師に、2月25日、「防人と歩む会」で講演会を行った。「ウクライナと台湾で見るサイバーセキュリティ状況」と題されたその講演で印象に残ったことがある。

予想よりもウクライナのサイバー攻撃被害が少ない理由のひとつとして「米国の協力」が挙げられていたが、米国は一方的にウクライナを支援しているわけではなく、ウクライナから多くを学んでいるという。具体的には、米軍兵士がウクライナ兵士に訓練をしつつ、逆に、ウクライナがロシアから受けた大規模な電子戦やジャミング(電波妨害)の知見を提供されるという「ギブ・アンド・テイク」が成立しているというのだ。翻って、日本であれば、どうか。

意外だったのは、日本のサイバー防御能力の高さだ。まず、東京五輪のサイバー防御が大成功していたという事実は、ほとんど認識できていなかった。今更ながら、関係者の尽力に深甚なる敬意を表したい。また、米セキュリティー企業「プルーフポイント」の一昨年の調査で、(ファイルを使用不能にする)ランサムウエア感染率も身代金支払い率も、日米英豪仏独西の7カ国でダントツに低い。身代金を支払っても全データ復旧率は8%で、8割は再攻撃を受けるというから、一度甘い対応をすればカモにされるのは、どこの世界も変わらない。

1月中旬にワシントンDCを訪れた松原さんは、安保3文書が高い評価を受けていることを肌で感じた一方、「日米関係の最大のネックは、日本のサイバーセキュリティーだ」と言われ、その都度、前述のような事実を告げて即座に反論した。すると、先方は反論されたことに驚きながらも、その事実については納得したという。華奢(きゃしゃ)な体で「日本ここにあり」を体現している松原さんに「あっぱれ」の思いを強くした。

淡々とした語り口ながら秘めたる気概に溢(あふ)れる松原さんを日本政府こそ見習い、サイバーの世界に限らず、さまざまな場面で日本の尊厳を守る情報発信をしてもらいたいと切に思う。

【プロフィル】葛城奈海

かつらぎ・なみ 防人と歩む会会長、皇統を守る国民連合の会会長、ジャーナリスト、俳優。昭和45年、東京都出身。東京大農学部卒。自然環境問題・安全保障問題に取り組む。予備役ブルーリボンの会幹事長。近著に『戦うことは「悪」ですか』(扶桑社)。

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