海底のレクイエム

フィリピン・ブスアンガ島の「隼」二型

「隼」は中島飛行機が開発した日本陸軍の戦闘機で、軽快な運動性能と航続力を生かして先の大戦初戦で活躍した。二型は零戦に搭載されているエンジン(栄二一)と同じハ115に換装、初期に生産された一型の欠点を改良したタイプ。

「隼」二型の丸みが強いカウリングがよく分かる。二型の発動機は一段二速過給機付きの中島ハ115で、海軍の栄二一型と同等である(戸村裕行撮影、2019年5月)
「隼」二型の丸みが強いカウリングがよく分かる。二型の発動機は一段二速過給機付きの中島ハ115で、海軍の栄二一型と同等である(戸村裕行撮影、2019年5月)

2019年5月にフィリピン・ブスアンガ島の北部、水深40メートルの海底に眠る日本陸軍一式戦闘機「隼」二型の撮影に成功した。

この「隼」は、2年ほど前に行われたソナーによる沈没船探索で偶然発見されたものだ。このため機体がある場所は、その探索に関わったごく一部の人間が知っているだけで、誰もが自由に訪れることができるわけではない。

また機体は泥地の上に着底しており、透視度も良くなく、潜水にもかなりの神経を使わなければならなかった。

今回撮影するにあたって、様々なルールが存在し、撮影時間も5分程度と十分なものではなかったが、残存数が少ない貴重な「隼」を捉えた成果の一部をご覧いただきたい。

「隼」の風防は完全な状態で残っている。かなり小さなもので、可動部を閉じたままだと頭部に余裕のない、窮屈な状態だったと思われる(戸村裕行撮影)
「隼」の風防は完全な状態で残っている。かなり小さなもので、可動部を閉じたままだと頭部に余裕のない、窮屈な状態だったと思われる(戸村裕行撮影)
尾翼部では垂直尾翼を後ろに下げ、水平尾翼を上に移動させる変更が行われている(戸村裕行撮影)
尾翼部では垂直尾翼を後ろに下げ、水平尾翼を上に移動させる変更が行われている(戸村裕行撮影)
撮影アングルの関係もあるだろうが、この写真では胴体が長く、風防が遠くに見える。胴体が長く見えるのは、機体の細さも影響しているのであろう(戸村裕行撮影)
撮影アングルの関係もあるだろうが、この写真では胴体が長く、風防が遠くに見える。胴体が長く見えるのは、機体の細さも影響しているのであろう(戸村裕行撮影)
操縦席内にはあまり艤装品が見られず、計器類も残っていなかった(戸村裕行撮影)
操縦席内にはあまり艤装品が見られず、計器類も残っていなかった(戸村裕行撮影)

水中写真家・戸村裕行

1982年、埼玉県生まれ。海底に眠る過去の大戦に起因する艦船や航空機などの撮影をライフワークとし、ミリタリー総合誌月刊『丸』にて連載を担当。それらを題材にした写真展「群青の追憶」を靖國神社遊就館を筆頭に日本各地で開催。主な著書に『蒼海の碑銘』。講演、執筆多数。

雑誌「丸」
昭和23年創刊、平成30年に70周年迎えた日本の代表的軍事雑誌。旧陸海軍の軍 艦、軍用機から各国の最新軍事情報、自衛隊、各種兵器のメカニズムなど幅広 い話題を扱う。発行元の潮書房光人新社は29年から産経新聞グループとなった 。毎月25日発売。

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