回転ずしなどの外食チェーンで一部の利用客による不適切行為が相次いでいる問題で、各企業は警察当局に被害届を提出するなど厳しい姿勢を見せている。企業側は刑事上の処分を求めるだけでなく、当事者に対して損害賠償請求を起こす可能性もあり、飲食業界の法律問題に精通する弁護士からは「(企業側の)損害賠償の請求額自体は、数千万円から億単位も考えられる」といった指摘も出ている。
スシローのケースは「器物損壊罪、威力業務妨害罪」の適用も
「あきんどスシロー」が展開する「スシロー」では今年1月、10代の未成年の少年が共用の調味料の容器や食器をなめるといった動画が会員制交流サイト(SNS)によって拡散。スシローでは湯飲みの洗浄やしょうゆボトルの入れ替えを行ったほか、席とレーンの間にアクリル板を設置するなどの対応に迫られた。
スシロー側はすでに被害届を提出しており、被害届を受理した岐阜県警も2月中の書類送検に向けて捜査を進めていくものとみられる。
「すしに唾液をつけるといった行為の場合は、器物損壊罪、場合によっては威力業務妨害罪(の適用)ということになる」
そう指摘するのは、飲食業界の法務問題を専門に取り扱っている「法律事務所フードロイヤーズ」で代表弁護士を務める石﨑冬貴氏だ。石﨑氏は平成23年に弁護士登録後、令和元年からは川崎市内で焼き肉店の経営にも参画。弁護士業務のかたわら、自身も飲食業に携わっている。「ああいう迷惑行為をされると、(店側としては)非常に困りますよね」と実感を込めて話す。
スシローの場合、当事者は10代の少年のため、検察庁に書類送検された後は家庭裁判所で審理される。石﨑氏は「(今回の不適切行為は)周囲への影響は大きいし、しっかり注意喚起をしないといけないが、やっている行為そのものはいたずらの域を出ない」とした上で「保護観察処分か、家庭環境や本人の反省状況によっては『不処分』ということもあるかもしれない」と指摘する。
また、一部の利用客が、レーンにある寿司に無断でわさびを乗せる行為が発覚した「はま寿司」のケースでは、「偽計業務妨害罪に相当するだろう」と石﨑氏は指摘する。偽計業務妨害罪は、虚偽の風説の流布または偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者を罰する罪だ。「偽計業務妨害罪は、架空の発注をして業務を妨害するといったときに適用されるケースが多い。(はま寿司のケースでは)本来はわさびがないはずの寿司の上に、わさびを載せるといった行為は、偽計業務妨害罪に相当するだろう」(石﨑氏)という。
企業側が強気な姿勢を示す2つの「理由」
一方、一連の不適切行為をめぐり、企業側が損害賠償請求などの民事訴訟を起こす可能性について、石﨑氏は「損害賠償の請求自体は、(企業側が)結構な額を請求する可能性はある。数千万円から億単位の請求も考えられる」と指摘。石﨑氏によると、企業側が不適切行為に対して強気の姿勢に出るのは、2つの理由があるからだという。
「まずは株主に対する説明。今後開催される株主総会では『どういう施策を打ったのか』『どういう対応をしたのか』といった質問が必ず株主からされる。そう考えると(被害分の)実費だけの請求というのはないだろう。もう一つは消費者に対する説明。『不適切行為は絶対に許さない』といった毅然とした対応を広報する意味でも、消費者に示す必要がある」(石﨑氏)
ただ、石﨑氏は「現実には休業していないとなると、ありうるのは食器の交換費用や清掃費用くらい。(実際に認められる賠償額は)せいぜい数十万円ではないか」と推察する。
一連の不適切行為で共通するのは、SNSで拡散しているケースが目立つ点だ。本来は仲間内の〝受け狙い〟の動画のはずが、SNSによって拡散されて収拾がつかなくなってしまうケースが後を絶たない。
石﨑氏は「(若い世代は)物心がついたときにはツイッターやインスタグラム、TikTokなどSNSが常に隣にある。意思疎通もSNSが中心。ただ、コミュニケーションツールとして使っているSNSは、機能的には全世界につながっている。SNSに情報を投稿するということの意味を(投稿する側が)しっかりと理解しないといけないだろう」と話している。(浅野英介)