生産終了のボーイング747、“世界を小さく”したジャンボ機の引退が「遅すぎた」と言えるワケ

「ただただ巨大な航空機なのです」と、ニューヨークのRW Mann & Companyの航空アナリストのロバート・マンは語る。「体積が大きいだけでなく、コンサートホールに翼がついているようなものです。搭乗すれば宮殿に入るような体験になります」

この大きさによって、見れば驚くような機体だった。旅客がますます航空会社を選ぶようになった競争の激しい航空業界においては、この驚きは大きな売りになった。

「日本航空であれルフトハンザドイツ航空であれ、ブリティッシュ・エアウェイズであれ、エールフランス航空であれ、政府機関であれ、ボーイング747を運航していれば力の象徴になったのです」と、マンは言う。「力を特大に見せられる航空機だったのです。人々はボーイング747の前で呆然と立ち尽くしていました」

ボーイング747のエンジンは、推進力45,000ポンド(約20トン)を生み出すことができる。これは前世代の航空機と比べて、大きな前進だった。

ところが、すぐにより新たな技術に追い越されることになった。エンジンの出力が最大推進力10万ポンド(約45トン)か、12万ポンド(約54トン)にまで上昇したのだ。

このためボーイング747の4発ではなく、2発のエンジンのみでこと足りるようになった。「それに同じ飛行をボーイング747より少ない燃料で実現できるようになったのです」と、マンは語る。

旅客需要との乖離が明確に

現代の航空会社は、燃料費の高騰という問題に向き合わなければならない。効率性の向上と二酸化炭素(CO2)排出量の削減がますます求められる、競争的な環境となっているのだ。

1989年から2009年にかけて生産されていた「ボーイング747-400」は、1時間の飛行に約26,635ドル(約350万円)かかる。これに対して、いまも生産されている「ボーイング787-8」は、1時間あたり14,465ドル(約190万円)で飛行できるので、45%も安い計算になるわけだ。

RW Mann & Companyのマンは、最後に生産されたボーイング747の納品先となるアトラス・エアーですら、すでにその貨物輸送業務を「ボーイング777」に切り替え始めたと指摘する。ボーイング777は2発エンジンの航空機で、1990年代中ごろから採用されているものだ。

「もう、どちらにしようかと迷うものですらなくなっています」と、マンは言う。Sobie Aviationのソビーは、「ボーイング777の一択です。(ボーイング747は)比較的旧式なものになってしまったのです」と語る。

旅客便ではボーイング747は、第2の理由でも旧式となっている。ボーイング747は最大500人を超える乗客を運べるが、これは現在の航空旅行市場の需要に合わない。多くの旅行客はボーイング747の設計時に想定されていた大西洋を横断するような長距離便ではなく、短距離便を利用している。このため航空会社は、小型で単通路型の航空機を必要としているのだ。

航空業界は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の影響から回復しようと、まだもがき苦しんでいる状況だ。このため適切な空港間を適切な大きさのジェット機で結ぶことは、これまで以上に重要になる。

Ciriumのデータによると、パンデミックの影響で航空業界は2,200億ドル(約29兆円)の収入を失った。またパンデミックが始まってからの6カ月で、旅行者の減少によって43もの航空会社が廃業に追い込まれている。

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