国内外に多大な衝撃を与えた安倍晋三元首相の銃撃事件を巡る奈良県警の一連の捜査が13日、山上徹也被告(42)=殺人罪などで起訴=の追送検をもって終結した。安倍氏が当時、参院選の応援演説中だったことを踏まえ、県警は選挙の自由を妨害したとして、公選法違反容疑でも送検。選挙妨害の意図は、過去の事件で死刑か無期懲役かという量刑判断に影響を与えており、今後追起訴されれば裁判の重要なポイントになるとみられる。
「捜査を終え、検察庁の判断を仰ぐために容疑に加えた」
公選法違反容疑での追送検について県警幹部はこの日の記者説明でこう述べるにとどめ、立件に至った詳細な経緯は語らなかった。
山上被告は昨年7月8日の事件発生当日、犯行動機について「政治信条に対する恨みではない」と供述したとされる。今回の追送検について、捜査関係者は「銃撃すれば選挙活動が妨害されることは犯行前に容易に判断できたはずだ」として、安倍氏への殺意に加え、選挙妨害の未必の故意があったとみる。
平成19年に選挙運動中だった長崎市長、伊藤一長氏が銃殺された事件では、殺人や公選法違反罪などに問われた元暴力団幹部の男に、1審長崎地裁は「民主主義の根幹を揺るがす犯行だ」として死刑判決を言い渡した。
だが2審福岡高裁は、選挙妨害自体は認定したものの、その動機は、市長に対する個人的な恨みで「何らかの政治信条に基づくものではない」と判断。この事情を踏まえると、極刑選択には躊躇(ちゅうちょ)せざるを得ないとして無期懲役を言い渡し、判決は最高裁で確定した。
裁判員裁判で審理される予定の山上被告の公判では、責任能力や動機を踏まえた量刑判断が最大の争点になるとみられる。
一方、今回の銃撃事件では県警をはじめとする警察の要人警護の課題が浮き彫りに。当日の警護計画を承認した当時の県警本部長はその後辞任した。
捜査終結を受け、県警の安枝亮本部長は「このような事態を発生させたことは痛恨の極み。引き続き全職員が一丸となり、信頼回復に努める」とのコメントを出した。