新たな労働力の確保が急務
「高齢の修理工が『もう十分に出費したから新しい設備を買うつもりはない』と話している様子を目にしていることでしょう」と、テキサス州フォートワ―スで自動車修理工場Firm Automotiveを営むジョン・ファームは語る。「こうした店は従業員を訓練せず、設備も買わず、時代に取り残されつつあります」と語るファームも、引退を考えているようだ。
ローラ・ゲイは、経営していた自動車修理工場を6年前に売却し、いまは他の経営者の自社売却を支援して生計を立てている。だが、自動車修理業者の現状は芳しくないという。保険会社から補償される費用は、現代の複雑なクルマの修理費用には到底及ばないからだと、ゲイは説明する。
こうしたなか修理工場は、年配者には高齢を理由に引退され、若者には初任給の低さから見向きもされず、従業員の確保に苦労している。オーナーは「もううんざりしているのです」と、ゲイは言う。「心身ともに疲れ切っています。とても単純な業界だったのに、とても複雑な業界になってしまいましたから」
業界の専門家によると、修理工場の苦境は改善される前に悪化する可能性が高いという。「向こう10年から15年は前途多難です」と、180bizのホワイトは指摘する。「修理を依頼する人たちが技術者の数を上回っているのです」
生き残った自動車修理工場はいまよりも忙しくなり、昔とは異なる状況になるだろう。数十年間も修理工が不足していることを受け、電気自動車(EV)や自動運転技術に心を躍らせる新世代の働き手を呼び込もうと、業界は躍起になっている。
ホワイトいわく、新世代の働き手とは、1960年代に放送されたコメディドラマ「アンディ・グリフィス・ショー」に登場した修理工のゴーマー・パイルよりも、SFドラマ「新スタートレック」のエンジニアのジョーディ・ラ=フォージに近い人たちだという。
従来の修理工場がなくなると、レンチを手にした白髪交じりですすにまみれた典型的な修理工はいなくなるかもしれない。「こうした複雑な状況のなか、潤沢な資金がなく、雇用保険にも加入せず、機材が不足し、設備に保険をかけていない修理工場は経営が苦しくなる一方です」と、L&N Performance Auto Repairのアンダーウッドは指摘する。
独立系自動車修理業者の業界団体「Automotive Services Association(ASA)」で衝突事故部門長も務める「LaMettry’s Collison」のメディザデは、新たな労働者が業界に参入している様子をミネソタ州で目にするようになったという。「コンピューターやソフトウェアに関心があり、iPhoneやiPadを駆使する技術系の学生がかなり増えています」と、メディザデは語る。
自らが経営する店舗のひとつで、キア(起亜自動車)、日産自動車、クライスラーを傘下にもつステランティスの修理技術者を認定することになったとき、メディザデは最年少の修理工を指名した。自動車修理業界の未来に投資したのである。
(WIRED US/Translation by Madoka Sugiyama/Edit by Naoya Raita)