自動車のハイテク化が加速し、修理工場が廃業に追い込まれている

米国でクルマを修理できる工場の数は、この5年間で極端に減少している。ある業界誌によると、16年に米国の自動車修理工場が修理したクルマやトラックはひとつの工場につき225台だった。ところが現在は、246台まで減っている。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によって生じた半導体や自動車部品のサプライチェーンの混乱、そして全米で自動車修理工が不足しているせいで、この問題は深刻化しているのだ。

また、クルマの修理期間は19年より21年のほうが平均2.1日ほど長くなっており、完了するまでおよそ11日間かかる。これは自動車メーカーや保険代理店にソフトウェアを販売するCCC Intelligent Solutionsが実施した調査によって明らかになった。

この問題は深刻化する一方だと、専門家たちは推測する。「10年後には修理工場がさらに減り、修理工場を探す人がさらに増えるのではないかと予想しています」と、自動車修理工場のオーナーを指導する180bizを経営するリック・ホワイトは語る。

96%の修理工場が作業の遅延を報告しており、19年の遅延は1.7週間ほどだった。それが21年に入ると、平均3.4週間ほど遅れが出ていたことが業界による調査で明らかになっている。

巨額の設備投資が必要に

自動車修理業界で増加する複雑な問題を理解したいなら、アウディの新車でアライメントの再調整を試みるといい。クルマが横滑りしたり、ハンドルが振動したりする場合は、アライメントの再調整が必要になる。これはクルマと車輪をつなぐサスペンションを調整する作業だ。

この作業は、10年ほど前なら約1時間ほどで済んでいたと、今回の取材に応じてくれた修理工たちは口を揃える。ところが、いまは通常3~4時間近くかかり、最長9時間かかることもあるという。

これほど時間がかかるのは、新しいクルマであるほど高度な運転支援システムが搭載されているからだ。これによって車線維持や死角検知、衝突回避などが可能になる。こうした機能はクルマが正確が位置を把握していなければ作動しない。このため修理工は、この種の高度なシステムを支える車内のセンサーやカメラを較正しなければならないのだ。

ところが、車種によっては高額の専用工具でなければ較正できない。そもそも車輪のアライメントを確保するために必要な装置は70,000ドル(約900万円)ほどかかると、ノールカロライナ州ブローイングロックのL&N Performance Auto Repairの社長を務めるルーカス・アンダーウッドは語る。

さらに、クルマのセンサーとカメラシステムの方向を定める役割を果たすターゲットを購入しなくてはならない。ターゲットは自動車メーカーによって異なるが、1セットにつき約30,000ドル(約400万円)かかるという。わずか数車種を修理するために工具を入手し、修理工場を対応させるには、総額数十万ドルほどかかってしまう。

だが、こうした費用は、工具の使い方を従業員に教え込む前にかかるものであり、従業員が特定のクルマを修理する資格の維持費も支払わなくてはならない。こうして修理工場のオーナーは、将来への投資として数百万ドルも負担することになるのだ。

このような投資は、しばらく営業を続ける予定の店舗には価値があるといえる。だが、自動車修理工場のオーナーの多くは、引退の時期が近づいているという。修理工場経営者の約半数が60歳以上であることが、19年に実施された業界調査からわかったのだ。そして経営者の30%が、24年までに業界から引退する考えでいることも明らかになっている。

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