戦後の闇市から発展した鶴橋鮮魚市場(大阪市生野区)の運営会社が、老朽化した建物の解体と不動産の売却計画を進め、明け渡しを拒否したテナント側を提訴していた問題で、会社側と契約した売却先側が規模を縮小した上で市場を再建する方針を示していることが9日、分かった。営業を続けたいテナント側も応じる意向を示しており、2年以上続いた法廷闘争に終止符が打たれる見通しとなった。
鶴橋鮮魚市場は、終戦直後の昭和20年代に建てられた闇市のバラックから発展。33年以降、約3千平方メートルの敷地に建物があり、最盛期には60店舗以上が軒を連ねた。当時は早朝に運行された近鉄の「鮮魚列車」が三重県方面から新鮮な海産物を運び、市場もにぎわったという。
ただ建物の老朽化が著しく、平成21年に耐震基準を満たしていないことが判明。雨漏りや壁のひび割れなどが相次いだ。
さらに借入れがかさんで経営難に陥った運営会社側は、建物の解体と会社清算の計画を進めた。これにテナント側が反発すると、会社側は令和2年秋、立ち退きを拒んだテナント約20店舗に明け渡しを求めて大阪地裁に提訴した。
会社側は昨年12月、市場の土地と建物を大阪市内の不動産業者に9億円で売却する案を株主総会に提出した。しかし、引き渡しまでに法廷闘争が解決しない場合、4億1千万円を値引きして売却するという内容だったため、半数超の株主が反対し、否決された。
その後、別の業者が約9億5千万円で土地と建物を買い取り、敷地の南側約300平方メートルで市場を再建する計画案を提示。当初の売却案よりも好条件だったことから会社側は売却に応じることを決め、今月4日の株主総会で承認された。
新しい市場は売却先の業者側が建設し、9店舗が入居する予定。市場の規模は縮小し家主も変わるが、テナントの一員で再建後も入居予定のマグロ店主、藤田伸司さん(65)は「歴史ある店を今後もしっかり続けたい」と話す。
運営会社側によると、売買契約は7日に成立。立ち退きを拒んでいたテナント側には和解金が支払われ、訴訟は全て終了する見通しだという。永尾泰則社長(52)は「昨年12月に提案が否決された後は、株主の意向に沿う努力をした。会社は清算の方向へ進むが、再建は非常に喜ばしい」と安堵(あんど)した様子だった。(岡嶋大城)