8日発売の『安倍晋三 回顧録』(中央公論新社)を早速、興味深く読んだ。読売新聞の橋本五郎特別編集委員らが計18回、36時間にわたりインタビューした生前の安倍氏の肉声を伝えるもので、安倍政権時代のさまざまな出来事がよみがえる。外交政策から政治家の人物評まで網羅的に聞いた470ページ以上の大冊の中で、平成27年12月の日韓慰安婦合意の部分について感想を記したい。
問題を「最終的かつ不可逆的に解決」することを約束した慰安婦合意では、日本政府は翌年、韓国政府が設置する財団に10億円を拠出した。ところが韓国側が結局、合意をほごにしたため、失敗だったとの見方がある。この件について安倍氏はこう述べている。
「確かに合意は破られてしまいましたが、日本が外交上、Moral High Ground(道徳的に優位な立場)になったのは事実です。国際社会に向かって一度合意したことで、私は先方と会う度に『君たち、ちゃんとやれよ』と言える立場になったわけですから」