「何もしなくても、金を預けるだけで月利4%の配当が出る」-。そんなうたい文句で出資者を集めていたフリッチクエスト。中部地方に住む女性看護師(26)は600万円を投資したが、配当をほとんど受けることなく、出資金を捻出するために借りた金の返済に追われる。「このまま逃げるつもりだろう。返金はあきらめている」。女性はそう話し、肩を落とす。
令和2年3月、飲み屋で隣の席だった30代前半くらいの男性と意気投合し、2軒目で男性の知人男性2人も合流した。世間話をする中で、合流した男性の1人が「投資をしているんだ」と切り出した。ほかの2人も投資しているとし、「よかったら後日、詳しい話を聞きませんか」と誘われた。
数週間後、再会した男性2人は「フリッチクエスト」という投資グループと明かし、女性が住む県の看護師だけでも4、5人は参加していると勧めた。女性が興味を示すと、4月上旬、運営会社の社員を名乗る50代くらいの男性が訪ねてきた。男性は真っ赤な名刺を差し出し、改めてフリッチクエストの仕組みを説明。「毎月の給料に、10万円プラスでもらえたら、どうかな」と持ちかけられた。
看護師の仕事は昇給に期待できず、副業も禁止。今以上に稼ぐには、投資するほかない。女性は出資を決め、男性が示した英語の契約書2通に署名。男性は出資の資金を消費者金融や銀行などで借金を勧め「配当ですぐに返済できるから」と安心させた。
男性は「銀行には、結婚式の費用と話すと借りやすい」と指南。女性は架空の結婚式の計画を立て、消費者金融と銀行、計7社から計600万円を借りた。後日、610万円を現金で社員に手渡した。
配当は翌5月からあった。女性は、2、3カ月に一度、中部地方まで訪れた社員から配当をまとめて受け取っていた。運営会社は現金で配当をもらえることを強調し、合計で360万円を受け取ったという。
だが、配当は令和3年12月を最後に突然ストップ。4年2月にネット会議システムを通じ、説明会が開かれた。運営会社は「捜査当局の介入があり、出金できなくなってしまった」と説明。女性はその時、詐欺被害に気づいた。
残っていた借金は200万円超。女性は毎月の給料やボーナスで返済を進め、債務整理も行った。今も毎月8万円ほどを返済に充てる。「口座の残高を見て、『今月はここまでしか使えない』と考える。節約してなんとか乗り切っている」という。
昨年4月、運営会社側から「再契約」を持ち掛けられ、20年間、毎月分割で出資額の7割を返済すると約束されたが、振り込まれたのは2240円が1度のみ。女性は「噓をついてお金を借りなきゃいけないのはおかしい。なんで、そこで気付けなかったか」と悔やむ。
運営会社の社長らが逮捕され、今後捜査が進むが、「被害者の中には、家族を支えている人もいる。みんなの人生を、どう考えているのか。悪いと思っているなら、きちんと償ってほしい」と憤った。(橘川玲奈)