フランスでロシア政治を描いた小説「クレムリンの魔術師」がベストセラーとなった。昨年春に発刊され35万部も売れた。プーチン露大統領がソ連国家保安委員会(KGB)職員から独裁者となり、ウクライナに介入するまでの道のりを元側近が語るという筋書き。登場人物は主人公以外、すべて実名だ。
プーチン氏はツァー(皇帝)と呼ばれ、「ロシア人が求めるものは2つ。国内では秩序、国外では力を示すことだ」「この国では私より、スターリンに人気がある。虐殺したからだよ。君たちインテリは分かっていない」と言ってのける。小説なのに、モスクワの権力闘争を目の前で見ているような錯覚に陥り、グイグイ引き込まれる。主人公は、スルコフ元大統領補佐官がモデル。「偉大なロシア」というプーチン理念を構築した人物だ。
この小説がはやるのも、フランス人がロシアに抱くロマンに忠実だからだろう。「冷徹で残酷で、神秘的な氷の帝国」-。ナポレオンのモスクワ遠征以来、こんなイメージが浸透し、人々を畏怖させ、魅了してきた。ネットに「ロシアの魂に触れた」との口コミがあふれる。あるロシア学者は仏紙に寄稿し、「この小説の問題は、みんなを魅惑すること。ロシアが分かったような気になり、批判の矛先を緩める」と警鐘を鳴らした。(三井美奈)