「太安萬侶(おおのやすまろ)」と聞いてピンとこなくても、最古の歴史書「古事記」を編纂(へんさん)した人物といえば歴史の授業を思い出すかもしれない。今年は、奈良時代の高級官僚でもあった太安萬侶(生年不明~723年)の没後1300年にあたる。
古事記は、日本の国が神々によって造られたとする神話で彩られ、神の血筋を引く天皇が統治したとつづる。イザナギとイザナミの夫婦神が日本列島の島を次々に生みだした「国生み神話」、天から神々が九州へ降(くだ)る「天孫降臨」、初代・神武天皇が九州から大和(奈良)に入って国を治めた「神武東征」などは特に有名だ。
こうした神話は戦前に小学校教科書などに挿絵入りで掲載されたが、終戦を迎えると、皇国史観に基づいた戦前教育の見直しで教科書から姿を消した。古事記は、「偽書(ぎしょ)」ともいわれた。主に奈良時代について記した歴史書「続日本紀(しょくにほんぎ)」に、古事記編纂の記述がないことなどが理由だった。