大金を貢ぐだけで済まない　「メン地下」の推し活にご用心

小規模なライブやイベントで活動し、若い女性の人気を集める「メンズ地下アイドル」、通称「メン地下」。１月末、メン地下の男２人が、女子高校生にみだらな行為をしたとして警視庁に逮捕された。「付き合おう」「もっとお金を使ってくれたら」－。甘い言葉で、高校生の小遣いの域をはるかに超える数百万円単位のカネを払わせていたことも明らかに。パパ活や援助交際の温床にもなっており、警視庁は警戒を強めている。

犠牲者は高３女子

メン地下で、アイドルグループ「蒼天（そうてん）」の「翼」こと田辺稜弥（りょうや）容疑者（２５）＝東京都渋谷区本町＝と、別のグループ「時雨」の「伊織」こと本田孝一朗容疑者（２２）＝東京都調布市下石原＝の犠牲になったのは、いずれも高校３年の女子生徒で、Ａさん（１７）とＢさん（１７）だった。

若者の間では、応援するアイドルを「推し」、推しを応援する活動を「推し活」と呼ぶ。同じ事務所に所属する田辺、本田両容疑者は、言葉巧みにＡさんとＢさんを行き過ぎた推し活へと導き、１月２９日、東京都青少年健全育成条例違反の疑いで警視庁少年育成課に逮捕された。

田辺容疑者の逮捕容疑は、令和３年３月、渋谷区内のホテルで、Ａさんが当時１５歳であると知りながら、みだらな行為をしたとしている。本田容疑者は、４年６～７月、所属事務所の関連会社が運営する飲食店や新宿区内のホテルで、Ｂさんが１７歳と知りながら、４回にわたり、みだらな行為をしたとしている。

田辺容疑者は「Ａさんと個人的に会った記憶がない」と容疑を否認。本田容疑者は「１７歳と知っていた。間違いない」と容疑を認めている。

過剰サービスも「売り」に

メン地下は、大手芸能事務所に所属するようなアイドルとは異なり、ファンとの距離が近いことを売りにする。アイドルとファンが２人でインスタントカメラで写真を撮る「チェキ」や、指をはさんでキスをする「指チュー」など過剰なサービスをするグループも珍しくない。

田辺、本田両容疑者が所属する事務所では、関連会社がコンセプトカフェ（コンカフェ、特定のテーマを持つカフェ）を経営し、メン地下候補生に女性客を接客させていたとみられる。カフェ店員として人気が出れば、地下アイドルに「昇格」できるという。

少年育成課によると、Ａさんは２年９月、渋谷駅前でライブに誘われたのをきっかけに、田辺容疑者のファンに。３カ月後には、田辺容疑者に「付き合おう」と言われた。Ａさんは２人で写真を撮る権利「チェキ券」を大量に購入。計３００万円をつぎ込んだとみられる。

一方、Ｂさんは、関連会社が運営する新宿・歌舞伎町のコンカフェで、当時店員だった本田容疑者と知り合った。本田容疑者はＢさんに「もっとお金を使ってくれたら、アイドルになれる」と告げ、計５０万円を貢がせていた。

カフェには「ＶＩＰ部屋」と呼ばれる半個室があり、本田容疑者は営業時間中にこの部屋でＢさんにみだらな行為をしたとされる。本田容疑者は取り調べに「Ｂさんをとりこにして、売り上げをあげたかった。性的欲求を満たすためだった」と供述しているという。

パパ活や援助交際の温床

高校生が出すにはあまりに高額のお金を、ＡさんとＢさんがどのように準備したのか－。

少年育成課はその出所を明らかにしていないが、一般的には家庭の金を使い込んだり、援助交際や「パパ活」をしたりする少女が多いという。同課によると、メン地下に関する相談は３年に約１５件だったが、４年には約５０件に上り、１年間で３倍以上に増えている。

「子供に交際していると勘違いさせ、性行為をして稼ぐアイドルなんて、怒りしかない。厳しく処分してほしい」と訴えているというＡさんの保護者。少年育成課は「（両容疑者の犯行は）少女の精神的な未熟さにつけこむ犯罪。家庭の金の持ち出しやパパ活、生活の乱れなどに気を付けてほしい」と警戒を呼びかける。

専門家も注意喚起する。「清く楽しく美しい推し活」の著書がある弁護士の松下真由美さんは「推し活の楽しみの一つに、周りの人に推しの魅力を伝える『布教活動』がある。布教ができず、『私だけの推し』となってしまうのは、危険なサイン」と語る。

松下さんは、保護者に対しても「子供の趣味を頭ごなしに否定すると、子供は隠すようになり、お金の使い道も分からなくなってしまう。メン地下は特に、特殊で分かりづらいが、安全に楽しむには子供の趣味を理解してあげることが大切なのではないか」と話した。（橘川玲奈）

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