戸籍の氏名に読み仮名を記載し、その付け方にも一定のルールが求められることになった。日本語は漢字と仮名が混在するうえ漢字の読み方も多様な言語だ。その伝統を尊重し、厳正かつ柔軟に対応してもらいたい。
法制審議会の専門部会が戸籍法改正要綱案をまとめた。政府が今国会に改正案を提出し、令和6年度にも施行する見通しだ。
従来、読み方は住民票には記載されるが戸籍にはなかった。マイナンバーカードへの記載など、行政事務のデジタル化に対応するためという。きっかけは令和2年、新型コロナウイルス感染拡大に伴う10万円の給付金支給が遅れた問題だ。片仮名の銀行口座との確認などに手間取った経緯がある。
要綱案では「一般的に認められている読み方」に限るとした。パブリックコメントやアンケートで、幅広い年代から一定の制限を求める声が多かったからだ。
親が決めた名前の読み方に規制がかかることをよしとしない意見もある。とはいえ、名前は個人的なものであると同時に、人が社会で生きるための社会性も併せ持つ。近年は「キラキラネーム」と呼ばれる特異な名前も増え社会問題化した。命名で子供に不利益が生じないか、公的に一定の基準を定めるのは当然だ。
一方で、わが国独特の命名文化を踏まえ、柔軟に対応するとの補足説明も付いた。常用漢字表や辞書に載っていない場合でも説明を求めたうえで判断する。漢字と反対の意味や、連想できないような読み方は認められない。
漢字は古代中国で生まれ輸入された表意文字だ。仮名はそこから発生したわが国固有の表音文字である。中国では基本、一つの漢字に一つの読み方をあてるが、日本では漢字には音読み、訓読みがある。さらに源頼朝の「朝」を「トモ」と読むような「名乗り訓」もあり、独特の命名文化が醸成されてきた。今回はそんな歴史や伝統を踏まえ幅広く裁量を認める。
法制化されると既に戸籍がある人も届け出が必要になるが、その場合は一般的でなくても従来使ってきた読み方も認められる。届け出がない場合は市町村が本人に通知し、記載することになる。
多彩な名前があるのは日本ならではの文化だ。登録には混乱も予想されるが、効率的な運用に知恵を絞ってもらいたい。