椎間板の修復で腰痛を直す 手術不要の日帰り治療とは

腰は身体の要。老化などで腰の痛みが生じると、日々の暮らしや仕事、趣味など、その人の人生そのものが影響を受ける。

腰痛の原因は複雑で、慢性腰痛の要因とされるのが、加齢や負荷による椎間板の変性。これまでは手術をしても根本的な原因を治療することが困難とされてきた。

近年、椎間板変性による損傷を修復する腰痛治療法「セルゲル法」が注目を集めている。日本で唯一この治療を行っているILC国際腰痛クリニック東京の蓑輪忠明院長に、慢性的な腰痛の仕組みと新しい治療法について聞いた。

――日本では腰痛を抱える人はどれぐらいいるのでしょうか。

蓑輪 若い方から高齢の方まで日本の人口の30%近い人が腰痛を抱えていると言われています。加齢によるもの、スポーツや仕事、長年の姿勢の悪さからくるもの、生まれつきの骨格なども関連しています。腰痛と聞くと簡単なイメージを持たれがちですが、整形外科領域において腰痛は非常に複雑で難しい病態だと感じています。

――腰痛が起きる根本原因としてはどのようなことが挙げられますか。

蓑輪 慢性腰痛で多いのが椎間板変性を伴うものです。腰椎(背骨)の間には椎間板と呼ばれる場所があり、繊維輪と髄核の2層構造になっています。繊維輪は繊維が交互に組み合わさってどの方向に動かされても衝撃を緩和できる仕組みになっています。繊維輪の内側にある髄核はゼリー状の液体でクッションの役割を果たしています。この椎間板が加齢や負荷がかかり続けることで本来の形を保てなくなって変形が始まり、椎間板の機能が低下し腰痛などの症状を引き起こすことを椎間板変性症と言います。

――症状はどのように進行するのでしょうか。

蓑輪 椎間板変性が起きると、椎間板がひび割れして中の髄核成分が外に漏れ出し、炎症が起こります。これが椎間板ヘルニアと呼ばれるもので、腰痛だけでなくお尻や足の痛み、しびれなどの症状も出てきます。遺伝的に椎間板が弱い場合、何個もヘルニアが出る方もいます。

また椎間板の変性や劣化によって椎間板の安定が悪くなると、その人の腰を支えるために骨棘(軟骨が増殖して骨化し棘のようになったもの)が形成されて、脊柱管を圧迫し「脊柱管狭窄症(きょうさくしょう)」の症状が出てくることもあります。椎間板が不安定になり腰椎がずれて「腰椎すべり症」になるケースもあります。このように椎間板が老化、変形することでさまざまな腰痛を引き起こすんです。

――根本的な原因を治療することはできるのでしょうか。

蓑輪 例えば椎間板ヘルニアの場合、一般の整形外科ではまず痛みを抑える薬やストレッチなどを取り入れて経過を見ます。飛び出したヘルニアは白血球が食べてくれるので自然に良くなることが多いからです。ヘルニアがひどい場合は、手術でヘルニアを切除して症状を緩和させます。ただ、手術で良くなったとしても椎間板のひび割れは修復できないので再発する可能性があります。椎間板ヘルニアが良くなったり悪くなったりを繰り返すのはそのためです。

当院で採用している「セルゲル法」では、これまでの外科的治療では困難だった、椎間板の損傷を修復することができます。セルゲル法は2007年にフランスで開発され、ヨーロッパを中心にすでに世界54カ国以上で導入されています。この治療では椎間板の劣化した部分にDiscogel(ディスコジェル)という薬剤を注入し、それがゲル化してひび割れを修復します。ディスコジェルは水分を吸着するため椎間板の中の圧力が下がり、外に出たヘルニアを減退、消失させる働きもあります。ジェルがインプラントとして椎間板内に留まることでクッション機能として作用し、髄核成分が外へ漏れ出るのを防ぎます。これにより椎間板自体が自身の再生能力によって元の正常な機能を回復すると考えられています。

治療室のX線透視装置
治療室のX線透視装置

――どのような流れで治療されるのですか。

蓑輪 まず30分じっくりと時間をかけて診察を行います。これまでの病歴やどんな運動をされているか、仕事でどう困られているかなどを細かく伺って、MRI画像を見ながら痛みの要因を説明し、それにはどう治療を進めるのが良いか、どんなデメリットがあるかを納得していただいた上で治療に望んでいただきます。

セルゲル法の治療は、うつぶせに寝て局所麻酔かけて行います。X線透視装置を使いながら細い穿刺針を治療箇所となる椎間板の中心に挿入し、腰椎にDiscogelをゆっくり注入します。必要に応じて椎間板の外側に痛み止めや炎症を抑えるステロイドなどを入

れて症状の緩和を図ります。治療時間は30分程度と短く、体への負担も大きくありません。1時間ほど安静にしていただくだけで、その日のうちに帰宅していただけます。治療後、椎間板内が修復されているかどうかは、レントゲンやCTで確認できます。

――デメリットはありますか。

蓑輪 椎間板の修復自体は早い段階でされますが、症状はゆっくり改善し実際に効果が出始めるまでには3週間から3カ月ほどかかります。デメリットとしては、10人に1人ぐらい治療後に腰痛が悪化するケースがあること。これは薬剤を入れたとで椎間板がほんの少し大きくなって神経を圧迫するためで、2週間ほどで改善します。むしろ一時的な痛み

で不安や不信感をもたれることが一番のデメリットといえるかもしれません。腰痛は心理的なストレスとも関わりがあります。一時的に腰痛が出ても、リハビリなどの運動療法で良くなられる方が多いです。

治療後は、強度の強いゴルフやテニス、腰をひねる水泳などのスポーツは1カ月程度控えていただいていますが、筋肉が衰えないように普通の生活をしてくださいと申し上げています。散歩や自転車など軽度の運動は治療の翌々日ぐらいからなら問題ありません。

同クリニックのエントランス。診察は完全予約制
同クリニックのエントランス。診察は完全予約制

――これまでどれぐらいの治療例があるのでしょうか。印象に残っているケースはありますか。

蓑輪 2022年9月に東京で開院して250人以上の方に治療を行っています。やはり腰痛がひどい椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症の方が多いですね。手術をしたけれど改善されない、とか、病院を何件も回ったけれど手術は無理だと言われた、逆に手術を勧められたけれど怖いのでやりたくないという方もおられます。

印象に残っている例としては、脊柱管狭窄症で動くことができず排尿障害もある80代のお母さんを息子さんが車椅子で連れて来られて、「手術はできないと言われたけれど何とかなりませんか」と相談されたケース。生きていること自体がつらいご様子だったのですが、セルゲル法で治療を行ったところ、腰痛だけでなく排尿障害も改善されたと聞いて非常にうれしかったですね。改善の幅は痛みがなくなることに留まらないと思います。

――費用はどれぐらいかかりますか。

蓑輪 自由診療になりますので、1カ所120万円(税別)で、2カ所目からは1カ所増えるごとにプラス10万円(同)で最大5カ所まで治療を行うことができます。決して安いとは言えませんが、セルゲル法の治療効果は一生ものです。

――今、人生は100年時代と言われます。セルゲル法は長い人生を考えた選択肢の一つと言えますね。

蓑輪 私はもともと主にがん診療に携わっていたのですが、人の生死を前に悩むこともありました。命を助ける仕事はもちろん大事ですが、人生を豊かに暮らす健康寿命を延ばす仕事をしたい。それが本来自分のやりたい仕事ではないかと思い、セルゲル法の治療を広めたいと思いました。価値観はその方によりますが、私個人の願いとしては、QOL(クオリティ・オブ・ライフ=人生の質)を大切にして、つらい腰痛でやりたいことができない人生でなく、やりたいことをやって楽しく暮らしていただくことが本望です。

――腰痛に悩んでいる方にメッセージをお願いします。

蓑輪 痛みが常につきまとう人生は非常につらいと思います。セルゲル法を知っていただき、痛みを改善することで健康寿命が延びて豊かな人生を送っていただけると考えます。

クリニック全体で受付から治療する医師まで腰痛に一生懸命に取り組んでいます。治療に至らなくても構いませんので、気軽にお問い合わせください。

【お問い合わせ先】

ILC国際腰痛クリニック東京 東京都港区港南1丁目8-15 Wビル1階

℡ 03-6712-3520(9:00~17:00/日曜日除く・祝日対応)

●セルゲル法について

この治療で使用されるDiscogelは医薬品医療機器等法上の承認を得ていない未承認医療機器ですが、「医師等の個人輸入」により適法な輸入許可を得ています。日本では、未承認医療機器を、医師の責任において使用することができます。

●Discogelの副作用等について

治療で使用する局所麻酔のお薬が注射針に沿って拡散し、一時的なしびれなどを引き起こす可能性があります。治療後1週間前後で一時的に痛みが発生する可能性があります。理論的には、治療時にDiscoGelが神経根に接触すると一過性の火傷のような感じをもたらす可能性があります。神経痛を伴う一時的な放射状の刺激が治療直後に現れる可能性があります。可能性は非常に低いですが、治療後に椎間板の容積が大きく減少した場合には腰痛が悪化する可能性があります。その他、咽頭痛、一時的な排尿障害、アレルギー反応、椎間板炎が発生する可能性があります。

提供:ILC国際腰痛クリニック

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