インターネット予約サービスの普及もあり、JR各社は新幹線や特急列車などの券を駅で対面販売する「みどりの窓口」の数を減らしている。その空きスペースの活用策として期待を集めているのがカプセル玩具売り場、いわゆる「ガチャガチャ」だ。JR西日本の系列企業は昨年12月、大阪府内の2駅の窓口跡地に売り場を設置。JR西の営業エリアでは初の試みだが、ガチャガチャと駅ナカの相性は「抜群」(専門家)。理由を聞いてみた。
基盤設備も人手もいらない
大阪駅から普通電車で約15分。千里丘駅(大阪府摂津市)の改札を出てすぐ、ガラス張りのスペースに自販機が並ぶ。14平方メートルに57台。人気キャラクター「ちいかわ」の手のひらサイズのぬいぐるみからエコバッグ、アリやイモムシといった昆虫の高精細な立体物までバラエティーに富む。駅発のバスを待つ間に立ち寄った女性(44)は「どれもクオリティーが高くてびっくり。クスっと笑えるようなものもあり、見ているだけでも楽しい」と話した。
隣の岸辺駅(大阪府吹田市)にも、かつてみどりの窓口があったスペースに売り場(10平方メートル、60台)がオープンしている。
発案したのは、近畿圏のJR駅構内で店舗の企画・開発などを手がける「ジェイアール西日本デイリーサービスネット」(兵庫県尼崎市)。運営は業界トップクラスのシェアを誇る「ハピネット・ベンディングサービス」(東京都台東区)が担う。
同デイリーサービスネットによると、ガチャガチャは奥行きが限られたスペースでも設置が可能で、一般的な売店などと異なり基盤設備は不要な点が大きな決め手になった。もちろん人手もいらない。
市場規模が拡大するガチャガチャ
近年は手軽な大人向けエンターテインメントとしてガチャガチャの人気が高まっているという。新型コロナウイルス禍で、大型商業施設などのテナントが相次ぎ撤退する中、そこに入居するような形の「専門店」も目立っている。
令和3年2月には、設置台数が3千超の「ガシャポンのデパート池袋総本店」(東京都豊島区)がオープン。東京駅構内にも昨年11月、大型店舗が新装開店した。
何が出るか分からないワクワク感はいつの時代も変わらない魅力だ。3年度の市場規模は平成14年の統計開始以降、過去最高の450億円に達した(日本玩具協会調べ)。今後も成長が見込まれている。
ガチャガチャに関する著作があるライターの尾松洋明さん=ペンネーム=によると、特に駅ナカは売り場として相性がいいらしい。商品の入れ替わりサイクルが早く、メインターゲットとなる日常的な駅利用者を「飽きさせない」のだという。
地域の名所や特産などを玩具に仕立てた「ご当地ガチャ」も駅との親和性が高い。尾松さんは「誘客や駅の知名度アップにもつながっていく」と話す。
スマホ充電スタンドにも
JR西はニーズの低下とともに、経営効率化の一環でみどりの窓口の削減を進めている。令和2年4月時点の設置駅は約340駅だったが、今年1月現在は230駅にまで減少。将来的にはさらに減る見込みだ。
ジェイアール西日本デイリーサービスネットによると、千里丘、岸辺両駅は跡地活用の先行事例に該当し、今後も窓口の活用策の検討がなされるという。
首都圏でも鉄道各社が対面の窓口を減らし、スマートフォンの充電を貸し出すスタンドを設置したり、テレワークで使えるシェアオフィスを提供したりするなどユーザー目線で知恵を絞る。
窓口の代替機能として、JR西やJR東日本はビデオ通話でオペレーターが切符の購入をサポートする券売機を導入している。ただオペレーターの呼び出しから通話までの待ち時間や使い勝手といった課題も残っている。JR西は通学定期の購入が集中する今年3月までに、オペレーターを増員するなど改善策を講じるとしている。(矢田幸己)