放置竹林はメンマで「解決」 淡路島の市民プロジェクトに注目

ビルの6、7階ほどの高さまで育った竹をチェーンソーで切る新庄道さん=兵庫県洲本市(藤崎真生撮影)
ビルの6、7階ほどの高さまで育った竹をチェーンソーで切る新庄道さん=兵庫県洲本市(藤崎真生撮影)

生活に欠かせない食料とエネルギー。国連の持続可能な開発目標(SDGs)でも安全、安定的な確保が掲げられ、各地で取り組みが続く。兵庫・淡路島では、放置竹林を「食料」に転換して解決しようという試みが本格化。市民グループ「あわじ里山プロジェクト」(洲本市)は、伐採した竹からのメンマ製造に着手。珍しい「純国産メンマ」として過去3年、ほぼ完売という人気だ。竹林の整備と食品製造の一挙両得を目指す。

伐採後の活用

ブゥゥン…という音とともにチェーンソーの刃が回り始めた。昨年12月、洲本市内の竹林で、あわじ里山プロジェクトによる竹の刈り取りが行われていた。

高さはビルの6~7階ほど、直径約15センチまで育った巨大な竹が切り落とされた。同団体の協力メンバー、新庄道(なおし)さん(34)は「人間が竹林に『アクセス』することが必要なんです」と話す。

同団体は約4年前に設立。所有者の許可を得て約8千平方メートルの竹林を定期的に整備する。事業にあたり「伐採した竹の利用が課題だった」と代表の辻三奈さん(44)は話す。かごなど竹細工製品での活用法もあるが、大量の竹をさばくのは難しい。模索を続けるなか、着目したのがメンマだった。

タケノコなど食用にもなる竹。ラーメンの具材に欠かせないメンマも、竹から作られる。タケノコと比べ、メンマならではのメリットもあった。「土の中にあるタケノコは探すのが難しく、掘る技術も必要。メンマの原料『幼竹』はすぐに見つけられ、ノコギリで簡単に切ることができる」

思わぬ協業相手も現れた。辻さんらの取り組みを知った島内の水産加工業者だ。カットした竹を煮る作業のため、イカナゴのくぎ煮作りに使っている釜を貸し出してくれるという。漁獲量の減少でくぎ煮の生産量が減り、設備の有効活用策としての提案。事業が加速した。

原料となる幼竹は高さ約160センチ。タケノコの収穫期を過ぎた竹だ。発酵を補助するため寝かせる際に塩漬けしたり、収穫した日に湯がいて鮮度を保ったりなどの工夫も凝らしたという。「あわじ島ちく」(100グラム、350円)と名付け、令和2年に商品化した。

「あわじ里山プロジェクト」代表の辻三奈さんと「あわじ島ちく」(藤崎真生撮影)
「あわじ里山プロジェクト」代表の辻三奈さんと「あわじ島ちく」(藤崎真生撮影)

国内のメンマは大半が輸入品。中国などで生育した竹を原料とする。輸入品に比べ割高というが、これまでに計約1・7トンを商品化。大半を販売した。「国産を待っていた」と買い求める人もいるという。

主に冬に行う竹林の整備に加え、春のタケノコ掘り、メンマ用の幼竹の刈り取りを続けることで竹林拡大を抑える好循環を目指す。同団体はメンマ以外にも、竹チップや竹炭作りなど竹の活用を進める。辻さんは「子供たちにきれいな竹林と里山を残していきたい」と語る。

各地で広がる

林野庁によると、平成29年の国内の竹林面積は約16・7万ヘクタール。昭和61年(約14・7万ヘクタール)からの約30年で、東京ドーム約4280個分にあたる約2万ヘクタールの竹林が広がった計算になる。

竹の地下茎は1年で2~3メートル、最大7~8メートルに達することもあるなど繁殖力が強く、放置すると広がっていく。成長の早い竹が日光を遮って周囲の樹木を枯らしたり、農作物を荒らす野生動物のすみかとなって獣害を引き起こしたりするという。

同庁などによると、かつて竹林はタケノコ生産や竹かごなどの生活用品、造園資材などに利用され維持、管理されてきたが、竹材やタケノコの輸入増、プラスチック製品の普及などで利用が減少。竹林の放置の一因になったとされる。昭和35年に約40万トンだった竹材生産は、近年は約3万トン前後に激減している。

この状況を改善しようと、竹の利用促進で竹林整備につなげる取り組みが各地で広がる。京都府木津川市の認定NPO法人「加茂女(かもめ)」は市内で計約2・6ヘクタールの竹林整備に取り組む。軸足を置くのは「竹を食べて放置竹林をなくす」ことだ。

「かぐや姫のおやつ(筍(たけのこ)お焼き)」と名付けたお焼きは、生地に竹の粉を入れ具材にはタケノコなどを使う。30回ほど試作を重ねた力作だ。煮込んだタケノコを乾燥させた「筍するめ」も人気。そのほか、ふるさと納税の返礼品になった竹ストローなどさまざまな竹製品を手がける。

代表理事の曽我千代子さん(73)は「タケノコを食べ、竹製品を使う。それが放置竹林の整備につながる」と話す。

メンマ製造も各地で取り組まれている。放置竹林からのメンマ製造を目指す全国ネットワーク「純国産メンマプロジェクト」には、60以上の団体などが加入。会長の日高栄治さん(76)=福岡県糸島市=は「将来は各地の行政と連携したい」と意気込む。メンマやタケノコの国産化拡大も目標で「竹林の整備から(輸入に頼らない)『食の改善』を進めたい」と抱負を語る。

兵庫県立大大学院の緑環境景観マネジメント研究科と同県立淡路景観園芸学校教授の藤原道郎さん(60)は「放置竹林の問題はまだ十分知られておらず、もっと知ってほしい。竹の適切な利活用は、SDGsの推進につながる大事な取り組み」と話す。(藤崎真生)

目標15「陸の豊かさも守ろう」 森林、湿地、山地など、陸域生態系と内陸淡水生態系の保全、回復、持続可能な利用を目指す。

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