平凡な女の子が女優としての才能を開花させていく姿を描いた美内すずえの少女漫画「ガラスの仮面」。不朽の名作をモチーフにした新作落語「落語の仮面」全10話の月例公演に、〝新作落語の女王〟とも呼ばれる弁財亭和泉(46)が挑戦している。コアなファンの前で披露した高座の動画を、インターネットでオンデマンド配信中。和泉は「今しかできない高座を記録にとどめたい。漫画ファンにも落語ファンにも楽しんでもらえれば」と意気込む。
落語の仮面は新作落語の名手、三遊亭白鳥が創作した。主人公の北島マヤならぬ三遊亭花が、月影千草(つきかげ・ちぐさ)ならぬ三遊亭月影師匠に見いだされ、伝説の演目「紅天女(くれないてんにょ)」ならぬ「夢幻桜(むげんざくら)」の上演権を巡る騒動に巻き込まれながらも落語家として成長するストーリー。美内も公認したほどの完成度だ。
原作に子供の頃から親しみ、社会人になってから既刊全巻を「大人買い」したという和泉。女性落語家が参加する「ウーマンズ落語会」(サンケイリビング新聞社主催)をプロデュースしていた白鳥に「やらせてほしい」と手を挙げた。
当時は二つ目。力不足でできない話し方や自分では笑ってもらえないギャグを修正し、自分なりの落語の仮面にした。白鳥も「自分に合わせて、どんどん変えるように」と言いながら稽古をつけてくれたという。
「ガラスの仮面は演劇の話だけど、実はスポコン漫画。劇中劇のクオリティーの高さがすごいですよね。落語の仮面の〝噺(はなし)中噺〟もすごい」と魅力を語る。第1話は「与太郎小咄」、第2話は「初天神」と〝噺中噺〟が口演される。ガラスの仮面全巻の名場面がちりばめられ、ファンの心をくすぐる。「漫画と落語、両方知っているとめちゃくちゃ楽しめます」
一昨年、真打ちになり、年齢も40代半ばを過ぎた。「音源と映像をいい形で残しておきたいと思った。全10話の通し公演には体力がいる。やるならいましかない」と決意した。
会場は東京・日本橋兜町の「アートスペース兜座」。10回通し券を購入したファン約20人が、畳敷きの会場で収録を見守る。「毎月、同じメンバーで集まって、サークル活動みたいです。10回終えたら、打ち上げとかやったりして」と笑う。先月、花が宿命のライバル、立川あゆみ(原作では姫川亜弓)と出会う第2話を終え、まだ8話が残る。
「頭の中で私が落語の仮面の漫画を読んでいて、それをお客さまに落語で説明している感覚になる瞬間がとても楽しい。お客さまの頭の中にも、花ちゃんと月影先生の絵が浮かんでいたらうれしいです」