沈没寸前の法科大学院
「法科大学院」という制度をご存じだろうか。難関といわれる司法試験に優秀な合格者を増やすため、全国に法科大学院を設立し、ここで教育を受けた者が司法試験を通るようにする制度で、文科省、法務省、大学、裁判所、弁護士会などが総力をあげて取り組んだ司法制度改革の目玉として、2004年に導入された。大学の法学部以外や社会人からも法曹界を目指す多様な人材を集めて弁護士を増やし、町医者のように、国民の誰もが弁護士に気軽に相談したり助言を求めたりできる社会を実現しようという理想が、そこにはあった。
しかし、鳴り物入りで導入されたこの制度は、今のところ壮大な失敗に終わっている。なぜなら法科大学院制度導入によって、司法試験を志す若者は増えるどころか大幅に減ってしまったからである。法科大学院ができる前、司法試験受験者は4万人程度いたが、昨年の法科大学院の志望者はわずか約1万人、司法試験合格者も1403人の低水準(過去最多は2102人)だった。
多くの国民にとっては法科大学院の志望者の数など、どうでもいいことに思えるかもしれないが、これは大変なことだ。弁護士、裁判官、検察官という「実務法曹」を志す人が減るということは、日本の法秩序を守る専門家の質に直結するからだ。
根本の問題は、司法試験合格者を増やすことに抵抗が強いことにある。そのような提言に対しては、すぐに「質の悪い弁護士が増える」とか、「弁護士が増えすぎると、弁護士が生活できなくなる」といった批判が噴出し、議論が進まなくなってしまう。