強制送還の日程が刻一刻と変遷する中、ようやく2人の帰国が実現した。全国で相次ぐ強盗事件で、フィリピンの入管施設に収容されていた強盗の指示役4人のうち今村磨人(きよと)容疑者(38)と藤田聖也(としや)容疑者(38)の身柄引き渡しを受け、警視庁は7日、移送の末に、2人の逮捕に踏み切った。一連の広域強盗事件の発覚から3週間余り。異例の展開を見せてきた事件が、また大きく動き出した。
7日午後0時20分ごろ、上空を飛ぶ航空機が日本の領空に入った後、警視庁の捜査員が今村、藤田両容疑者の逮捕状を執行した。本来、制約を受けるはずの入管施設内で、携帯電話を使えたり酒が飲めたりするといった、通常では考えられない「逃亡生活」に終止符が打たれた瞬間だった。
首都マニラは早朝から物々しい雰囲気に包まれた。マニラ近郊の入管施設「ビクタン収容所」で拘束されていた今村、藤田両容疑者。周辺に早朝から報道陣が詰めかける中、現地時間午前7時半(日本時間同8時半)ごろ、施設前に到着した警察車両に乗り込んだ。
現地の気温は30度近く。2人は黒色Tシャツの上に防弾チョッキ、水色の短パンにマスク姿だった。比政府関係者によると、通常は防弾チョッキを着せることはないが、事案の重要性から安全面に配慮したという。車列は小銃を抱えた警察官らの車に先導されて動き出した。
フィリピン当局による厳戒態勢が敷かれたマニラ国際空港では、2人は詰めかけた報道陣の前を通らず、航空機下に乗り付けた車から直接タラップを上って機内に入った。機内では一般客の目に触れないよう捜査員に囲まれ、天井から床までカーテンで仕切られた後部の座席に着席。途中、機内食も食べたという。
熱帯のフィリピンを離れて約4時間後の午後2時半過ぎ、航空機は約3千キロ離れた気温10度前半の日本の地に降り立った。乗客が全員降りた後、2人は警視庁の捜査員らに両脇を囲まれ、フィリピン出国時と同じTシャツと短パン姿のまま成田空港の到着ロビーへ姿を見せた。
報道陣のカメラのフラッシュを浴びながら、伏し目がちに前を歩く藤田容疑者。大柄で周囲から頭一つ出た今村容疑者は、その後ろでフラッシュに動じず前を見て歩き、時折左右に視線を振っていた。
「強盗への関与はあったんですか」
成田空港の地下で、警視庁が用意した車両に乗り込む際には、報道陣からの問いかけが相次いだが、2人は表情を変えず黙ったまま。2人が乗った警視庁の車両は午後5時ごろ、多くの報道陣が詰めかける中、渋谷署に入った。