4月を15勝5敗。5月を13勝11敗1分け―と長嶋巨人は順調に勝ち星を積み重ねた。6月に入っても勢いは止まらない。そんな6月13日のことだ。
米国からビッグニュースが飛び込んできた。女子プロゴルファーの樋口久子(当時31歳、富士ゼロックス所属)が、米国ツアーのメジャー大会『全米女子プロ選手権』を日本人選手として初めて制覇したのである。2位のブラッドリーらに3打差をつける通算9アンダー。
「チャコ」の愛称で呼ばれ、日本女子プロゴルフ界の「女王」が米ツアー参戦8年目でついに悲願達成である。
「頭の中が空っぽ。ボールがボヤーッと大きくみえた。8年間頑張ってきたけれど、もう勝てない―と思っていました」と記者会見で樋口は正直に胸の内を語った。
ブラッドリー、ランキンとともに最終日、6アンダーの首位でスタートした樋口だったが、5番を終わった時点でブラッドリーに2打差をつけられた。
「やっぱり、私は勝てない。もういいや。いいゴルフ、悔いの残らないゴルフをしよう」。そう思うとスーッと肩から力が抜けたという。
樋口に〝勝利の女神〟がほほ笑み始める。13番、ピン5メートルにつけてバーディーを奪うと、14番で2・5メートル、15番で3メートルを沈めて3連続バーディー。そして16番の第2打、トップしたボールは低い弾道でグリーン手前のバンカーへ一直線。
「あぁ、入っちゃう」。するとバンカー手前で弾み、グリーンに乗った。
「あのホールでパーをキープできたので勝てると思いました」
チャコのポニーテールが風になびいていた。
それから42年後の2019(令和元)年8月、2人目の日本人メジャー制覇者が誕生した。渋野日向子(ひなこ)(当時20歳=RSK山陽放送所属。現在はサントリー)が、英国ツアーの『AIG全英女子オープン』を通算18アンダーで制したのだ。18番で約6メートルのバーディーパットを決めた〝シブコスマイル〟が世界中を魅了した。そのテレビ中継の解説を樋口が務めていた。
最終18番、2つ前の組で17アンダーで並んでいたサラスが1・3メートルのバーディーパットに臨む。「短いけれど、これを決めれば優勝―というパットは、いつものようには打てないものよ」とポツリ。するとサラスのパットがカップに蹴られた。「ほらね」。チャコの予言にみんなが驚いた。(敬称略)