【パリ=三井美奈】ルノーの筆頭株主であるフランス政府が日産自動車への出資比率引き下げに応じたのは、ルノーの業績が悪化する中で、日仏連合の力をテコに電気自動車(EV)部門の建て直しを急いだためだ。欧州連合(EU)では2035年にガソリン車の新車販売が禁止される予定で、急速なEVシフトを前に、ルノーにとっては事業再編が喫緊の課題だった。
仏経済誌シャランジュのアランガブリエル・ベルドボワイエ記者は「マクロン仏大統領は、両社の経営統合は無理だと分かった。ルノーは日産に大幅に譲歩してでも、日仏連合を再生させねばならないと考えた」と分析する。
ルノーと日産は、カルロス・ゴーン前会長が18年に逮捕されて以降、対立が表面化した。経営統合を持ちかけたルノーに日産が反発し、関係が冷え切った。
仏政府の方針転換は、ルノーの経営悪化が背景にある。22年の世界新車販売台数は計205万台で、ゴーン氏が会長だった17年(376万台)に比べ、落ち込みに歯止めがかからない。ウクライナ危機に伴う経済制裁でロシア市場から撤退を迫られた打撃が大きい。
起死回生をかけ発表したのが、EV事業の分社化だ。ルノーは昨年11月、今年後半にも新規株式公開(IPO)する計画を示した。技術を持つ日産に新会社へ出資してもらう狙いがあった。ガソリンエンジンやハイブリッド車(HV)部門では、中国企業と合弁会社の設立を決めた。日産は自社技術がルノーを通じて中国企業に流れることを警戒し、知的財産権をめぐる交渉が長引いた。
仏経済紙レゼコーによると、マクロン氏は1月9日にパリで外遊中の岸田文雄首相と会談した際、ルノーの資本関係見直しに反対しない意向を伝えたという。
マクロン氏はEVを国家産業戦略の要に据えており、30年までに仏国内で「年間200万台」生産するとの目標も掲げている。ルノーが日産との共通プラットフォーム(車台)を使い、仏北部でEV工場の拠点作りを進めていることにも期待感を表明していた。