ロシアのウクライナ侵攻から間もなく1年。ウクライナ出身の国際政治学者、グレンコ・アンドリー氏(35)は、ロシアが戦争長期化もいとわない中で重要となるのは、ウクライナへの迅速な武器供与であり、日本も武器支援を検討するときだとの認識を示した。(聞き手 黒川信雄)
◇
ロシアによるウクライナ侵略が始まり約1年を経て明確になったのは、ロシアはあらゆる手段でウクライナ全土を併合し、その民族も根絶させたいと考えている事実だ。彼らがそう考える背景には、ウクライナはロシアの領土の一部で、さらにウクライナ人もロシア人の一部だと捉えるプーチン大統領ら同国指導部のゆがんだ世界観がある。
侵略戦争にはこれまで3つの段階があった。第1段階は首都キーウ(キエフ)の制圧を狙った電撃戦。ロシアは失敗し、第2段階として昨春から大量の砲弾を撃ち込む戦略に移った。この戦略も思ったような結果は出ず、次第に欧米の武器支援を背景にウクライナ側が勢力を盛り返すに至った。そして第3段階として昨年9月の部分的動員令のように、ロシアは人員の大量投入を開始した。「総力戦でなければ戦争に勝てない」と気づいたからだ。
ロシアを理解するうえで注意すべきは、人命に関するロシア人の考え方が他の国々と大きく異なるという点だ。指導者も国民も、戦争でどれだけ人が死んでも構わないと考えている。旧ソ連時代は国民の間でアフガニスタン紛争への従軍を懸念する声が出たり、反戦的な兵士の母の会が立ち上がったりしたが、現在のロシアでそのような動きはほぼない。これはウクライナ侵略が開始されて以降、戦争に批判的な数百万人ともいわれるロシア人が国外脱出したことも背景にある。
もう一つは、ロシアは物事を極めて長いスパンで考えるということだ。戦争の長期化もいとわないだろう。そうした考えを変えさせるには、ロシア軍を戦場から物理的に排除するしかない。
そのためにはウクライナに迅速に武器を供与するしかない。もしウクライナ軍が現在の装備を昨年2月時点で保有していれば、おそらく戦争に勝利していただろう。多くの人命が失われる前に自由主義諸国はウクライナを支援しなくてはならない。このままでは戦争は何年も続く。
日本も、この戦争を終わらせるために何ができるかを改めて考えてほしい。兵器でなくても、ピックアップトラックや救急車など、車両の提供は極めて有効だ。ただ欧州ではドイツ、スウェーデンも武器支援に踏み切っている。先進国で武器支援を検討すらしていないのは日本ぐらいだ。今こそ考え直すべき時ではないか。
◇
グレンコ・アンドリー キーウ国立大卒。京都大大学院博士後期課程指導認定退学。著書に『NATOの教訓 世界最強の軍事同盟と日本が手を結んだら』(PHP新書)、『プーチン幻想』(同)、『ロシアのウクライナ侵略で問われる日本の覚悟』(育鵬社)、『日本を取り巻く無法国家のあしらい方』(同)。35歳。ウクライナ・キーウ出身。