昨年末に閣議決定された安保3文書は今後、着実に実行に移さねばならない。岩田清文元陸上幕僚長と島田和久前防衛事務次官は、安保3文書で、何から何を守るのかが明確にされ、日本のみならず周辺地域の国際秩序維持にも当たる決意が示された点を評価する。日本が「反撃能力」を保有することについて左派勢力は「専守防衛を逸脱するおそれがある」と批判するが岩田氏は「そもそも独立国として、反撃能力を持つことは当然の権利」と、島田氏も「日本の防衛に反撃能力は過去一貫して必要不可欠だった」と強調。反撃能力の保有には課題も多い。評論家の潮匡人氏は「そもそも国際法上『反撃』など許されない」と指摘し「やられる前に、阻止(ないし抑止)する」のが法の要請であると解説する。
慶應義塾大学の森聡教授は、3文書の最上位にあたる国家安全保障戦略について、今回の新戦略は「外交と防衛に限らず」「政府全体で国家安全保障を推進するための総合的な取り組み」を示したものだと読み解く。それだけに台湾有事に伴って沖縄の離島にも戦火が及んだ場合は、地方自治体が先頭に立って住民避難にあたらねばならず、国の所管官庁は内閣官房や総務省であるはずだとジャーナリストの仲村覚氏が問題提起した。
安保3文書で防衛費は大幅に増額されることが決まったが、自衛官の定数は増やさないことも明記されている。拓殖大学大学院の濱口和久特任教授は「人員確保なくして自衛隊は戦えない」として、自衛官の若年定年制や任期制、さらには志願制のままでいいのかも見直しが必要だと主張する。前日銀副総裁の岩田規久男氏は、防衛費の確保にあたって「『防衛国債は将来世代の負担になる』という財務省と岸田首相の考えは誤っている」とバッサリ斬る。(溝上健良)