川村妙慶の人生相談

運転免許返納の父 ヘルメットなしで自転車に乗り心配

イラスト・千葉真
イラスト・千葉真

相談

50代女性です。81歳の父は、1年前に人身事故を起こしたことで、ようやく運転免許証を返納しました。ところが、今度は電動自転車に乗る回数と距離が大幅に増えてしまい、家族として気の休まるときがありません。

父は片道1時間くらいは自転車で外出します。体力の衰えに自覚はなく、家族の忠告には一切耳を傾けず、帽子やヘルメットもかぶりません。

自転車は行動範囲が広がり健康増進につながる便利な移動手段ですが、免許制でなく年齢制限もないため、やめ時が難しいと感じます。父がまた人を傷つけたらと心配で、私はもう父に自転車に乗ってほしくありません。乗るならせめて、片道10分以内の最低限の日用品購入にとどめ、帽子やヘルメットをかぶってほしいのですが、父は頑(かたく)なで耳を傾けず困っています。

回答

ようこそおたよりくださいました。電動自転車で動くことは、お父さまの生活の一部なのですね。実は4月からヘルメット着用が努力義務化されますが、すんなり「かぶるよ」とは言わないかもしれませんね。

お父さまが反発するのは、人に指示されるのが嫌なのでしょう。子供に注意されてプライドが傷つくのかもしれません。その場合、理詰めで説得するよりも、気持ちを受け入れながらコミュニケーションをとることが近道だと思います。

「乗らないで」といった言葉は使わず、目線も真正面からではなくそっと隣に座り、例えば「事故を起こしてからでは遅いので、家族でルールを作らない?」などとやさしく尋ねます。一緒に作った一日のスケジュール表に沿って、事前に決めた短時間だけ乗ることにして、「それ以外の必要なときは私たちがフォローするわ」などと話してみてはどうでしょう。

ヘルメットの必要性も「なぜ、ヘルメットをかぶると思う?」と考えてもらい、「お父さんの命が奪われたら私が悲しい」とあなたの不安な気持ちを伝えてみませんか。人は「相手を悲しませてしまう」と分かれば、自分が必要とされていると伝わり、心が解きほぐされることもあるのです。

私の父は80歳になっても車を運転していましたが、ある日、車をこすってしまいました。そのとき「父さん、これから月に1度、一緒にどこかへ出かけよう。タクシーだと駐車場を考えなくていいし、運転に神経を使わずにすむよ」と伝えました。すると運転免許証を返納してくれたのです。

氷は温かなものに触れれば溶けるように、頑なになってしまった心は、あなたの温かい言葉で柔軟になると信じています。応援していますよ。

回答者

川村妙慶 僧侶兼アナウンサー。昭和39年生まれ。ラジオのパーソナリティーとして活動するほか、ブログで法話を日替わり更新中。著書に「泥の中から咲く 身と心をほぐす18の知恵」(NHK出版)や「人生後半こう生きなはれ」(講談社+α新書)などがある。

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