朝晴れエッセー

昭和の男・2月5日

とうとうこんな日が来たのか…。父が酒を飲めなくなったというのだ。

父は昭和10年生まれで、子供の頃に戦争を体験し、疎開先でいじめられた相手を返り討ちにしたのが自慢で、その後、高度経済成長期を、酒とたばこを相棒に企業戦士として生き抜いてきた。特にお酒が大好きで、飲めなくなったら死ぬときだ!とうそぶいていた。

私も遺伝なのか、お酒が好きで、実家に帰ると父と飲むのが大好きだった。父は秘蔵の日本酒を出してきたり自家製カクテルを作ってくれたりして、深い時間まで飲むのが楽しかった。

そんな父が数年前から「悪いけどお先に」と中座することが増え、とうとう食事中にひとくちだけ飲み、食事が終わると床に就くようになった。父が気にするので、その後も皆で少し飲むけれど何か盛り上がりに欠ける。やはり父の話は私たち次の世代の者にとって特別なものだったように思う。

子供の頃に父と一緒に夕食をとった記憶はほとんどない。今のイクメンパパたちにはあきれられそうな父だったかもしれないけれど、力強く生きている父の姿は、どんな言葉より私に絶対的な安心感を与えてくれていた。

もうすぐまた実家に帰る。おみやげはやっぱり父の好きな日本酒だ。まあ8割くらいは私が飲むのだけれど。聞けていない面白い話がまだまだあるはずだ。全部聞くまで何回でも帰るから、昭和の男の武勇伝、もっともっと聞かせてほしい。


近藤ゆき子(57) 奈良市

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