【ワシントン=渡辺浩生】バイデン米大統領は4日、中国の偵察気球の撃墜について自らの指示で行われたことを強調した。背景には、探知から約1週間、米本土上空の飛行を許したとする議会対中強硬派の批判をかわす狙いがある。政権は今後、米国だけでなくアジアや欧州にも飛来したという中国の偵察気球をめぐり、その機密情報収集の実態を解明する姿勢を強めていく構えだ。
「撃墜せよ」。ホワイトハウスで1日、中国の偵察気球が1月28日に米領空に侵入し、本土上空の飛行を続けている-と報告を受けたバイデン氏は指示した。
「最も安全な場所に動くまで撃墜は待ちましょう」
オースティン国防長官らは破片が落下して地上に被害が及ぶ可能性を挙げ追跡の継続を提案。「米国民の生命への危険がなくなり次第、速やかに撃ち落とす」との方針が決まった。
しかし、2日に国防総省が気球飛来を公表すると、野党共和党から「なぜすぐ撃ち落とさなかったのか」という疑問や中国に弱腰な政権の姿勢を批判する声が相次いだ。3日夜に北京に出発する予定だったブリンケン国務長官は急遽(きゅうきょ)、訪中延期を余儀なくされた。
4日午前11時半ごろ、バイデン氏は記者団に「われわれは対処するつもりだ」と作戦を〝予告〟。南部バージニア州のラングレー空軍基地を出動したF22戦闘機が同日午後2時39分、南部サウスカロライナ州沖で気球を撃墜した。同機のコールサイン(呼び出し符号)は「フランク01」。第一次大戦時にドイツ軍の偵察気球や航空機の撃墜で鳴らした米陸軍飛行士の名前からとられたものだった。
同日午後3時すぎ、オースティン氏は「大統領の指示」で被害なく撃墜に成功したと発表。バイデン氏も記者団の前で、飛行士らを称賛しつつ自らの決断を強調するのを忘れなかった。
その後、国防総省は記者団に対し、中国の偵察気球について、トランプ前政権時代にも複数回、米本土上空を飛行していたほか、中南米、東アジア、南アジア、欧州など5大陸・地域でも飛来が確認されていた事実を明らかにした。米国が主導する対中包囲網をまるでカバーするかのように、中国の偵察気球が広範囲にわたり活動していた実態を浮き彫りにした形だ。
米紙ウォールストリート・ジャーナルは、最新探知技術を搭載した偵察気球は衛星より低コストですむうえ、偵察機より長時間、低速飛行できるとの専門家の意見を伝えている。
米軍機が中国偵察気球を撃墜 バイデン大統領が指示、残骸回収へ