トレンドを読む

再評価進む女性芸術家たち

『合田佐和子 帰る途もつもりもない』
『合田佐和子 帰る途もつもりもない』

知る人ぞ知る女性芸術家を紹介する美術展が近年、国内外で増えている。美術界でも美術史上でも長らく中心だった「欧米/白人/男性」の芸術家以外に目を向け、再評価しようという世界的潮流とも関係がありそうだ。図録や関連書籍には創作と人生の軌跡や識者の論評なども収録され、読み応えがある。

『合田(ごうだ)佐和子 帰る途(みち)もつもりもない』(高知県立美術館・三鷹市美術ギャラリー監修、青幻舎・2970円)は、没後初の大回顧展(東京・三鷹市美術ギャラリーで3月26日まで開催)に合わせて刊行された。

合田佐和子(1940~2016年)は「奇怪な作品を生み出す美貌の美術家」として頻繁にメディアに登場した時期もある。廃材と手芸を生かした「オブジェ人形」や奇怪でエロティックな立体を発表し、20代にして頭角を現すと、30代でいきなり独学で油彩画を開始。マレーネ・ディートリヒら往年の銀幕スターを独特の色調で描き出し、退廃的な画風で注目された。彼女の感性はアングラ演劇を牽引(けんいん)した劇作家の唐十郎や寺山修司をも惹(ひ)きつけ、ポスター原画から舞台美術まで、時代の寵児(ちょうじ)との旺盛な協働でも知られる。

40代でのエジプト滞在を機に合田作品は明るく光に満ちるとともに、内省的に変わっていった。特に「目」を表した作品が大量に生み出され、興味深い。

本書によると、回顧展の企画意図には「女性であることが、合田の作家活動にどう作用したか」の検証があるという。一つのスタイルにとどまらず、映画や音楽など他分野と交わる合田の仕事は、しばしば美術の「正史」から外れたものと見なされたらしい。妖(あや)しく美しい女性美術家として「見られる」ことにも自覚的だったという合田だが、同時に「見る」主体として己を貫き、創作に向かい続けた人生だったことが分かる。

❖    ❖

『岡上淑子・藤野一友の世界』
『岡上淑子・藤野一友の世界』

岡上(おかのうえ)淑子(95)はコラージュ作品で知られる美術家。戦後に進駐軍が残した洋雑誌の写真からイメージを切り取り、独特の優美で幻想的な世界を紡ぎ出した。ただし作品を発表したのは1950年代のわずか7年間ほどで、その後は家族の事情などで制作から遠ざかったという。

2000年代以降、各地で個展が相次ぐなど再評価が進んでおり、『岡上淑子・藤野一友の世界』(岡上淑子・藤野一友著、河出書房新社・2970円)は福岡市美術館で先月まで開かれていた展覧会の公式図録だ。元夫の画家、藤野一友(1928~80年)との2人展として、互いの影響や共通点、差異を浮かび上がらせている。

岡上作品からは、戦後日本で女性たちが抱いた夢と、現実における苦悩などが感じ取れる。

❖    ❖

『白髪の国のアリス』
『白髪の国のアリス』

女性イラストレーターの先駆け、田村セツコ(85)の『白髪の国のアリス』(田村セツコ著、集英社・1980円)は、老いることも楽しくなるようなイラストエッセーだ。画業65年、「カワイイ」の体現者として今も少女を描き続ける著者が、紙と鉛筆を使った独自の〝健康法〟を伝授する。

ユーモアあふれる文章がいい。「おばあさんになるのは、生まれて初めてなので、内心、ひそかに、わくわくドキドキしているところです」

ちょうど今、東京都文京区の弥生美術館で「田村セツコ展」が開催中(3月26日まで)。児童書『おちゃめなふたご』など名作の挿絵のほか、『白髪の国のアリス』の原画も展示されている。(黒沢綾子)

会員限定記事会員サービス詳細