主張

荒井秘書官更迭 緊張感の欠如が目に余る

岸田文雄首相が荒井勝喜秘書官を更迭した。

荒井氏は同性婚について「隣に住んでいても嫌だ。見るのも嫌だ」などと述べ、制度導入なら「国を捨てる人、この国にはいたくないと言って反対する人は結構いる」と話していた。性的少数者を嫌悪する、明らかな差別発言である。

岸田首相は「多様性を尊重し、包括的な社会を実現していく内閣の考え方に全くそぐわない。言語道断の発言だ」と批判し「大変深刻に受け止めており、秘書官の職を解くという判断をした」と述べた。更迭は当然だろう。荒井氏は発言を撤回、謝罪したが、口をついて出た言葉は戻らない。

荒井氏の発言は、ただただ対立感情を深めるだけで、冷静な議論の妨げとしかならない。

岸田首相は参院本会議の代表質問で、同性婚制度について「わが国の家族の在り方の根幹に関わる問題であり、極めて慎重な検討を要するものだ」と答えた。

また衆院予算委員会では「国民にとって生き方や家族観、社会が変わっていく課題だ。社会全体の雰囲気にしっかりと思いをめぐらせた上で判断することが大事だ」と述べていた。

この認識は正しい。同性婚制度の問題は一朝一夕に結論が出るものではなく、慎重に議論を重ねることが重要である。

そもそも憲法第24条は、「婚姻は両性の合意のみに基づき成立する」と定めている。これは明らかに異性婚について定めたものと解釈するのが自然だ。

一方で、第14条は「すべて国民は、法の下に平等である」と定め、性別などによる差別を禁じている。この矛盾を解消するためには憲法改正を議論しなくてはならない。それほど重大な議論に、嫌悪感情に基づく差別発言など、挟む余地はない。

岸田政権では、「法相は死刑のはんこを押すときだけトップニュースになる地味な役職」などと発言した葉梨康弘前法相が更迭されたのをはじめ、政治資金や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係をめぐる問題で閣僚の辞任が相次いだ。

ロシアによるウクライナ侵略や防衛力整備、感染症対策など内外に課題は山積している。これら重要課題への注力を政権内部から足を引っ張る構図は、いかにも緊張感を欠き、見苦しい。

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