サッカーJ1の川崎が久しぶりに、絶対的本命と目されずにリーグ戦を迎える。3連覇を逃した昨季終了後、主力の流出に加えて故障者も相次ぎ、開幕時の大幅な戦力ダウンは避けられそうにない。Jリーグ史上最強の呼び声も高い2020、21年のような盤石さはなく、鬼木監督は「目標は最強の挑戦者としてのリーグ優勝奪回」とチャレンジャーの姿勢でシーズンを戦い抜く構えだ。
22年も横浜Mとの優勝争いを最終節までもつれ込ませ、逆転優勝が難しい状況にありながら試合に勝ったのはさすがだった。しかし、シーズンを通しての主導権は横浜Mに譲り、J1を初めて制した17年からの6年間で4度優勝という黄金期の終焉を感じさせたのも事実だ。
1月22日にサポーターを集めて行われた新体制発表で、吉田明宏社長は「川崎のサッカーを見つめ直して攻撃的で質の高いサッカーを取り戻し、新たな歴史を刻むシーズンにする」と逆襲を宣言。強化責任者の竹内弘明強化本部長は「連覇を逃したからといって何かを大きく変えることはない。先制して2点目、3点目を奪いにいく。90分、圧倒して勝つことを目指す」と述べた。
よく持ちこたえてはいる。20年シーズン後に守田、21年シーズン中に田中、三笘という昨年のワールドカップ(W杯)カタール大会でも活躍した実力者を海外挑戦で失った。さらに長くチームの顔だった中村憲剛氏が20年シーズン限りで引退、21年シーズン後には旗手も海外へ旅立った。これだけ大量に主力が流出してしまっては、いくら育成、補強上手の川崎でも厳しい。
22年シーズン後もキープレーヤーを失った。カタールW杯でもプレーした前主将の谷口が海外へ、数々の貴重なゴールをもたらしてきた知念がライバルの鹿島へ移籍した。さらに21年シーズン最優秀選手(MVP)のレアンドロダミアンが右足、小林と家長がともに左足の故障で出遅れるなど逆風に見舞われている。
手をこまねいていたわけではない。谷口の代役候補としてセンターバックやサイドバックをこなす大南を柏から獲得。湘南から新加入の瀬川は前線や攻撃的な中盤が主戦場で、持ち味のハードワークは積極的にボールを奪いにいく川崎のスタイルにはまりそうだ。期限付き移籍から復帰した22歳の宮代は将来を嘱望されるアタッカーで、受難続きのFW陣で救世主となるポテンシャルを秘める。
近年、J1最大のテーマであり続けたのは、「川崎を止められるか」だった。他クラブの標的にされながら包囲網を打ち破り、日本サッカー界を引っ張ってきたことには改めて驚かされる。それでも新たなサイクルを迎えつつあるのは確かで、就任7年目の指揮官は「今シーズンはもう一度、ゼロから謙虚にチームを作り直す」と表情を引き締める。
脇坂、ジェジエウ、山根、鄭成龍ら各ポジションに好選手を擁し、優勝を争える戦力は維持している。近年は故障に苦しめられているゲームメーカーの大島が本来の姿を取り戻せれば最高の〝補強〟で、かつての三笘や旗手のような存在感を示すルーキーが台頭すれば主役にもなれる。受けて立つのではなく、自他ともに認める最強の挑戦者として臨む川崎には、昨季までとは違った怖さがある。(運動部 奥山次郎)