スポーツ指導における暴力が社会的な問題として注目を集めてから、10年がたった。
部活動などの現場で、「指導」に名を借りた暴力やハラスメントがいまもはびこっているのは恥ずべきことだ。
悪弊の根絶に向けて、スポーツ界は指導者の意識改革に取り組み続けなければならない。
大阪・桜宮高校のバスケットボール部で、男子部員が顧問教諭から受けた体罰を苦に自殺したのは平成24年12月だった。同じ時期には、柔道女子の日本代表選手らが指導者から暴力やパワハラを受けていたとして告発した。
これらの問題を機に、日本オリンピック委員会(JOC)などは25年4月、「暴力行為根絶宣言」を採択した。
この10年で、選手を取り巻く環境が改善したとは言い難い。レスリングや体操など多くの競技で暴力やパワハラが露見したことは、スポーツ指導における日本の後進性を物語る。
日本スポーツ協会(JSPO)の窓口には、暴力的指導に関する訴えが令和4年度だけで290件(1月18日現在)も寄せられた。統計を取り始めた平成26年度以降、最多だった令和元年度の251件をすでに上回っている。
JSPOによると、近年は暴言やパワハラに関する相談が暴力を上回るという。3年度の内訳を見ると、暴言は28%、パワハラは26%、暴力は13%だった。
「言葉の暴力などが増え、陰湿化している」と関係者は指摘している。全体の相談件数は増加傾向にあり、暴力行為の実数が減ったわけでもない。大多数の指導者は子供たちの競技力向上や心身の発育のために心を砕き、研(けん)鑽(さん)に励んでいる。一方で、理非をわきまえぬ一握りの大人を容認する土壌も色濃く残っている。
JSPOの処分規定では、被害者を死なせたり障害を負わせたりした場合は、指導者資格の取り消しや無期限の活動禁止など厳しい姿勢を打ち出してはいる。
しかし、大事なことは、暴力的指導を未然に防ぐための取り組みだ。JSPOやJOCなどの統括団体は指導者教育の徹底に一層、力を注いでもらいたい。
指導の現場から、暴力やハラスメントを全て排除する。日本のスポーツ界が「次の10年」で目指すべき着地点である。