先日行われたマラソンの中継を見ていたところ、先頭集団を走っているある女子選手について、元選手の解説者が「彼女の頑張りには頭が上がりません」と話していました。
目の前の女子選手の走りっぷりを称賛するだけなら「頭が下がります」という表現でいいのではないかと疑問を感じ、それぞれどのような意味があるのか調べてみました。
『広辞苑』を引いてみると
頭が上がらない
「相手に負い目があったり、権威に圧迫されたりして、対等に振る舞えない」
頭が下がる
「敬服する。感心させられる」
例として「あの毅然(きぜん)とした態度には頭が下がる」
とあります。
「頭が上がらない」というのは、過去に相手に借りがあったり、大きな失敗をして迷惑をかけてしまって負い目を感じたりして、一度頭を下げたまま上げられない状態が続いているということがイメージできましたが、やはり解説者が目の前の選手の快走をほめて表現したことについては、どこか腑(ふ)に落ちませんでした。
マラソン選手だった解説者は続けて、この女子選手が毎日欠かさず長距離を走るなど、過酷なトレーニングを重ねてきたことを紹介し、自分には決してまねのできない練習量だとも話していました。
そこで、解説者は女子選手の他を圧倒する日頃の努力に敬服するとともに引け目を感じ、頭が下がったまま上げられない心情を言葉に表していたのだと合点がいきました。女子選手の陰の努力を知っていなければ、目の前の快走だけを指して「頭が下がる」にとどまったものと思います。
残念ながら女子選手は頑張りのかいなく、その後下位に沈んでしまいました。しかし、それまでの努力が消えたわけではないので、解説者にとっては今後も「頭が上がらない」存在としてあり続けるのでしょう。
自分自身を振り返ってみても、上司や部下にはミスを補ってもらいながら何とか業務をこなしています。「頭が上がらない」ことや「頭が下がる」思いが多々ありますが、前者については何とか減らしていこうと日々奮闘しているところです。(二)