近ごろ都に流行るもの

「進化系・昭和の団地」 農園、イベント、ペット可で住民交流促進

昭和建築の団地。2棟間の広いスペースを活用した農園で、住民親子が土を耕し遊んでいた=埼玉県草加市のハラッパ団地・草加(重松明子撮影)
昭和建築の団地。2棟間の広いスペースを活用した農園で、住民親子が土を耕し遊んでいた=埼玉県草加市のハラッパ団地・草加(重松明子撮影)

自宅のドアを閉めれば、他人と関わらずに過ごせる都会の集合住宅。気楽な半面、ご近所との井戸端会議(≒情報共有や助け合い)の習慣は廃れた。そんな令和の時代に、昭和の団地の良さとITを掛け合わせたリノベーション団地が、入居待ちの絶えない人気物件となっている。ポイントは、住民交流を後押しするマネジャーの存在だ。住みやすさは建物(=ハード面)だけでは成立しない。良質なコミュニティーづくりというソフト面への注目が高まる。

季節行事を子供たちの思い出に

高度成長期の力強さを感じさせるワイドな幅55メートル4階建ての団地が、5950平方メートルの広い敷地に2棟並ぶ。埼玉県草加市。東京都心部から東武スカイツリーラインで40分ほど。新田駅徒歩約8分の立地に建つ。

マクドナルド日本第1号店が東京・銀座に出店した年。昭和46年に公社社宅として建てられた物件が、平成30年「ハラッパ団地・草加」(全55戸)として再生した。1戸の専有面積は52平方メートルで1LDKまたは2DK。団地内に保育園を併設し、入居者は30代ファミリー層と出産を想定しているカップル層が中心だ。夫は都内や地元企業の会社員、妻はパートで働く人が多いという。ドッグランもあり、4割の住民がペットを飼っている。

一昨年末、不動産管理会社のアミックス(東京都中央区)がライフスタイルをデザインするハウスコム(東京都港区)と提携。同団地に、月1回のイベントを企画運営する2人のコミュニティーマネジャーが配置された。

取材日の日曜。敷地内の農園では親子が土を耕し、集会室前の広場では「ガンバレ!」「いい音!」の掛け声。25人が参加して餅つき大会が行われ、つきたてを雑煮やあんころもちにしてほおばっていた。

「昔の良い風習、季節行事。子供たちの思い出に残る催しをやっていきたい」と、マネジャーの町田国大さん(40)。「道具や材料は用意しますが、主体は住民の方々。毎回率先してくれる料理上手なお父さんもいて、いい雰囲気が醸成されている」

同じくマネジャーを務める山本恵美さん(42)は「住民からのアイデアもお待ちしています。家族世帯の一方、住民の33%を占める単身者にも役立つような場の活用、企画も考えてみたい」。催事の告知や申し込みなど、担当者と住民間のやりとりはLINE。この日も「炊飯器が足りない」と呼びかけると、すぐに3台が集まった。

ほぼ毎回参加している2児の父親、安部恭平さん(34)は「子供服のお下がりをいただくなど、住民同士が親しくなるきっかけになっている。都内から転居したが、住戸の内装もリノベされてオシャレっぽく、保育園に優先的に入れるのが決め手になった」。

初めての餅つき。順番を待つ団地の子=埼玉県草加市のハラッパ団地・草加(重松明子撮影)
初めての餅つき。順番を待つ団地の子=埼玉県草加市のハラッパ団地・草加(重松明子撮影)

昨年11月に引っ越してきた佐々木剛さん(51)は初のイベント参加。妻の良美さん(39)が「パパ、緊張してるなって感じがします」とニコニコしながら視線を送る。「今日は妻の友人を紹介してもらい、娘(6歳)が楽しんでいるのでよかった」と剛さん。

昨夏、男性好みの「スパイスカレー」企画で父親の参加が増え、〝ご近所デビュー〟の場ともなった。

築古物件であり、長く居住してほしい意向で、家賃は周辺相場よりも抑えめの月額7・5~8・5万円(変動あり)。取材時も2世帯が入居待ちをしていた。

集合住宅を地域社会の〝器〟と考える動きが目立つ昨今。本連載でも昨夏、同一マンション住民限定の交流アプリ「GOKINJO」の活況を紹介した。

国土交通省では今年度、地域コミュニティーづくりに取り組む不動産関係業者を表彰する「地域価値を共創する不動産業アワード」を創設。応募97社のうち3~4割が集合住宅関連の取り組みという。3月中旬には初の表彰式が行われる。

アクティブな近所付き合いも、匿名でそっと過ごすのも、個人の生き方。人生のステージで、自分や家族がより楽しくラクに暮らせる受け皿が増えるといい。(重松明子)

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