世界に強み、日本の半導体製造装置メーカーに「新戦略」の必要性 対中規制強化

半導体の対中輸出を規制する米政府に歩調を合わせる形で、日本政府は中国を念頭に、製造装置が半導体の開発や製造に利用されないように、輸出規制を実施する方針を固めた。ただ、中国は半導体製造装置の世界最大の市場で、製造装置に強みを持つ日本企業にとっても主要販売先の一つ。規制による経営への影響は避けられない。専門家は「米国追従ではなく日本独自の視点での戦略が必要だ」と指摘している。

半導体製造装置は製造工程ごとに回路を焼き付ける露光装置や表面を磨く研磨装置、洗浄装置など、さまざまな種類が存在する。日本企業では東京エレクトロンやSCREENホールディングス(HD)などが、売上高で世界トップ10に名を連ねる。

バイデン米政権は先月末、半導体の輸出規制を巡り日本、オランダの当局者とワシントンで協議。オランダにもASMLといった世界屈指の企業があり、米国は日本とオランダに同調するように求め、半導体製造装置の対中輸出で制限をかけることで合意したとされていた。

日本半導体製造装置協会(SEAJ)によると、令和3年度の日本製半導体製造装置の売上高は3兆4430億円だった。うち中国向けの輸出は前年度比57%増の9924億円で全体の約3割を占め、国別でもトップとなった。

ただ、対中輸出規制が進めば、現在ある中国向けの売り上げの半分程度が影響を受ける可能性があるという。規制の対象として先端半導体に関連する一部の製造装置が検討されているが、SEAJの担当者は「日本企業にとって影響は決して小さくない。中国が規制対象外の分野に力を入れる可能性もあり、状況を注視する必要がある」と懸念を口にする。

一方で中国市場の投資意欲について「依然として活発」と述べるのは洗浄装置の世界大手、SCREENHDの広江敏朗社長だ。1月31日に開いた決算会見で、令和4年4~12月期の半導体製造装置の売上高2706億円のうち中国向けは17%だったことを発表し、「通期の売上高はしっかり作れる」と強調した。ただ、来年度以降の規制の影響は「現状では不透明だ」とも話している。

製造装置の部品などを手がける京セラの谷本秀夫社長は規制に関して「一部下振れの影響は出るが、半導体の総需要が減ることはない」と説明する。同社は半導体関連や電子部品に6年3月期からの3年で1兆3千億円の投資をするとしているが、「増産の計画に大きな変更はない」と継続の方針を示した。

こうした中、半導体関連の研究開発に長年携わってきた恵下隆・和歌山大副学長は対中輸出規制について「米国に追従するだけでなく、日本の独自の対応が必要」と話す。規制を受けた中国が自国で製造装置を開発、生産しようとしても「一朝一夕にはできない」とも指摘。そうすれば中国は最先端の半導体製造が遅れる可能性もある。その間に中国に代わる市場へのビジネス展開、半導体製造技術の向上などを進めることができれば「日本のものづくりを復活させるチャンス」として、将来を見据えた戦略を立てる重要性を指摘した。その上で、「半導体の開発だけでなく、政府は製造装置にもまとまった支援をする必要がある」と述べた。(桑島浩任)

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