【マニラ=森浩】全国で相次いで発生している強盗事件を巡り、フィリピンのレムリヤ司法相は犯行の指示役とされる日本人特殊詐欺グループ4人=フィリピンの入管施設で拘束中=について、「来週(6日以降)送還したい」との見通しを述べた。身柄移送が迫ってきたかたちだが、日本人が逃亡先や犯罪拠点にフィリピンを選ぶケースは多く、今後も類似の事例が起きる可能性はある。フィリピンはなぜ、逃亡先に選ばれてしまうのか。
「フィリピンでは捕まらない」
4人は2019年11月にフィリピンの首都マニラで摘発された特殊詐欺グループの中心メンバーだった。この事件を巡っては日本人36人が身柄を拘束されたが、4人はこう述べ、詐欺の人員を集めていたという。賄賂を支払っているため捜査の手が伸びないと考えていたとみられる。
フィリピンは犯罪拠点だけでなく、潜伏先として選ばれるケースも少なくない。平成24年に東京・六本木のクラブで客の男性が金属バットなどで殴られて死亡した事件の主犯格とみられる見立真一容疑者(43)=国際手配中=もフィリピンへの入国が確認されている。大手住宅メーカー「積水ハウス」が地面師グループに約55億円をだまし取られた事件でも、主犯格の男は2カ月あまりフィリピンに潜伏していた。
フィリピン司法省のドゥライ次官は産経新聞の取材に、日本とフィリピンは国外逃亡した容疑者の移送を容易にする「犯罪人引き渡し条約」が結ばれていないことが逃亡先に選ばれる理由だと述べた。比較的物価が安く、生活資金を抑えることができることも理由として付け加えた。
ただ、なにより容疑者たちを引き付けるのは公務員らの腐敗といえるだろう。「政府高官、地方公務員、誰にでも金を渡すことができる」とは地元警察OBの言葉だ。容疑者の即時射殺を辞さない麻薬撲滅戦争を強行したドゥテルテ前大統領さえ、「汚職はフィリピンを覆う病で根絶できない」と嘆いている。
とりわけ入管収容施設の腐敗は深刻だ。今回の事件でも、複数職員が賄賂を受け取って4人にスマートフォンなどを渡していたとされる。フィリピン入国管理局は3日、4人に便宜を図ったとして施設長と職員の計36人を更迭したが、全国を覆う汚職の一角にすぎない。
フィリピン政府は公務員の待遇を改善するなどして賄賂がはびこらない環境を作ろうとしているが、効果は未知数だ。警察OBは「日本人が入管施設から犯行指示を出していた意味は大きい。『犯罪者が過ごしやすい』というイメージはフィリピンにとりマイナスだ」と述べ、政府に対して汚職撲滅に本腰を入れるよう求めた。