主張

電力の不正閲覧 原発活用に水差す行為だ

電力会社の信用を根本から損なう不正行為が発覚した。新電力の顧客情報を大手電力6社が不正に閲覧し、一部を営業活動に利用していた。

電力自由化に伴って大手電力の送配電部門は分社化され、新電力とも中立的に取引することを義務付けられている。

新電力の顧客情報を競合関係にある大手電力側に閲覧させることなども、もちろん禁じられている。

しかし、関西電力など大手6社の小売会社は、送配電会社が持つ新電力の顧客情報を不正に閲覧していた。料金やサービスの健全な競争が損なわれ、自由化の根幹を揺るがす行為だ。厳しく反省してもらいたい。

不正な顧客情報の閲覧は関電と東北、九州、四国、中国、中部の各送配電会社を通じて行われていた。とくに関電では昨年春以降、委託先を含めて約1千人が4万件にのぼる情報を見ていたという。営業に一部情報を利用するなど、不正が常態化していた。

このため、経済産業省の電力・ガス取引監視等委員会が同社に立ち入り調査に入ったのは当然だ。同社以外では営業利用は認められなかったというが、不正の実態解明に全力を挙げなければならない。そのうえで徹底した再発防止措置を講じてほしい。

電力自由化をめぐっては、小売りが全面自由化されたのに続き、約3年前に発電と送配電部門が切り離された。送配電会社の独立性を高め、新電力を含めて競争を促すのが目的だった。自由化の制度設計に関する検証も必要だ。

何より懸念されるのが電力会社の法令順守体制である。電力業界では産業用電力をめぐり、競争を不正に制限するカルテルが結ばれていた疑いもある。

関電では役員の金品受領問題で社長らが引責辞任している。不正が繰り返される電力業界の体質は極めて問題といえよう。

岸田文雄政権は電力の安定供給の確保に加え、脱炭素を推進するために原発の建て替えを認めるなど原発の活用を決めた。そうした中で大手電力が国民の信頼を失えば、原発の活用方針にも逆風が吹きかねない。

電力各社は燃料価格の高騰を受け、約3割から5割近い大幅な料金値上げも申請している。利用者の理解を得るためにも法令順守の徹底が不可欠だ。

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