【北京=三塚聖平】昨年10月の中国共産党大会を経て習近平(しゅう・きんぺい)総書記(国家主席)が異例の3期目入りを果たし、中国側は新たな体制で対米関係安定化の道筋を探っており、ブリンケン米国務長官の訪中がその第一歩になるはずだった。しかし、米本土上空に飛来した気球を巡って米中の緊張がにわかに増し、中国のシナリオに狂いが生じた。
中国にとって、気球を巡る問題が訪中延期にまで至ったのは計算外だったとみられる。中国外務省の毛寧(もう・ねい)報道官は3日午後の記者会見で「米国とともに冷静、慎重にこの問題を処理することを望む」と発言。同日夜には報道官談話を出して「不可抗力で米国に誤って入った」として「遺憾」の意を表明し、早期の幕引きを図ろうとした。
昨年末には駐米大使を務めていた秦剛(しん・ごう)氏が外相に就任。対米関係を重視する人事と受け止められている。ブリンケン氏の訪中にも中国外務省報道官が早々に「歓迎」を表明。対米関係の仕切り直しへ同氏訪中を重視していることをうかがわせた。
今回の訪中延期は中国側のメンツに関わるが、中国外務省は4日の報道官談話でも「米国の事情であり尊重する」と抑制的なトーンだった。米政府への非難は避け「米国の一部の政治屋、メディアがこれにかこつけて中国を攻撃、中傷することに断固反対する」と的を絞った批判に留めた。
対米関係の安定化は、中国にとって喫緊の課題だ。昨年末まで続いた「ゼロコロナ」政策で中国経済の悪化に直面する中、米国企業などの対中投資を呼び込みたいという事情がある。また、バイデン米政権が同盟国などと進めている半導体の対中輸出規制強化に歯止めを掛けることが、中国経済を中長期的に左右する重要課題となっている。
一方で、習政権は半導体など重要産業の国産化を政府主導で進め、連携を強める米国と台湾を念頭に中国人民解放軍による演習などを積極化させている。米中対立が長期化することは避けられないことも織り込み、一方的な譲歩はしない姿勢を習政権は強めており、今回のような不測の事態が再び起きる可能性は今後も残る。