ロシアのプーチン大統領は2日、露南西部ボルゴグラード(旧スターリングラード)で演説し、ドイツが決定したウクライナへの戦車供与について「十字が描かれたドイツの戦車がロシアを再び脅かすとは信じがたいが、事実だ」と述べた。「ナチズム思想が現代もロシアの安全保障を脅かしている」とも主張し、ウクライナ侵略を第二次世界大戦の対ナチス・ドイツ戦になぞらえて正当化した。
演説は第二次世界大戦中の激戦「スターリングラード攻防戦」の戦勝80周年を記念する式典で行われた。
ロシアでは第二次大戦の独ソ戦での勝利は国民統合の象徴とされてきた。プーチン氏は、ウクライナ侵略も同様の「祖国防衛戦争」だと位置付け、国民の戦意高揚を図ったとみられる。
プーチン氏は昨年2月24日の演説でも、ウクライナを「ナチ国家」だと一方的に断じた上で、同国の「非ナチス化」などを掲げて軍事作戦の開始を宣言した。
プーチン氏は米欧の戦車供与を巡り、「ロシアは彼らとの国境に戦車を送らないが、対抗手段がある」と述べた上で「ロシアに勝利できると考えている者は、ロシアとの現代戦が(過去とは)全く別物だと理解していない」と指摘。核兵器の存在を示唆し、ウクライナや米欧を威嚇した。
ロシアは米欧製戦車について「脅威にならない」と主張しているが、実際は露軍が劣勢に陥る事態を危惧しているとの観測が強い。プーチン氏の威圧的な発言には、米欧によるウクライナ支援の拡大を阻止したい思惑があるとみられる。
前線の戦況を巡り、ウクライナ軍参謀本部は3日、最前線である東部ドネツク州のバフムト方面やリマン方面で前進を試みた露軍を撃退したと発表した。
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は2日、「露軍の死傷者数が20万人近くに達している」とする推計を米欧当局者が示したと報じた。バフムト周辺での戦闘で露軍は特に多くの損害を被ったとしている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は2日、「露軍は戦略的敗北が明らかな段階にある」と述べつつ、「露軍にはなお攻撃を続ける能力が残っている」とし、各国に支援継続を求めた。
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■スターリングラード攻防戦 第二次世界大戦の独ソ戦で、ソ連南西部の工業都市スターリングラード(現ボルゴグラード)を巡って行われた激戦。1942年夏から43年2月にかけて行われ、ナチス・ドイツ軍が敗北、欧州戦線の形勢の転換点となった。当初は独軍が優勢だったが、ソ連軍が持久し反攻に成功。都市の大部分が破壊され、死傷者はソ連側約113万人、ドイツなど枢軸国側約150万人とされる。