「前から狙われていた」事前に特殊詐欺電話、広域強盗に酷似 対策どうすれば…

関東地方を中心に各地で相次ぐ広域強盗事件を巡っては資産状況や家族構成を調べた名簿を利用し、特殊詐欺から強盗に犯行形態を変えた可能性が指摘されている。約2年半前、強盗の被害に遭った大阪府藤井寺市の女性(87)は産経新聞の取材に応じ、事件前に特殊詐欺の電話が複数回かかってきたことを明らかにし、「前から狙われ、情報収集されていたのだと思う」と話した。

「防火設備の点検に来ました」。令和2年9月10日夕、インターホン越しに若い男性が呼びかけてきた。点検は1週間前に来たばかり。違和感を覚えたが、門まで出向いてしまった。

シャツとトレーナー姿の男性2人組は人のよさそうな笑みを浮かべ、首から下げた設備会社のネームプレートを差し出す。女性が断ると「何もせずに帰ったら上司に怒られちゃうんですよ」。しつこさにあきれ、室内に戻ろうとしたとき、2人が勝手に門を開けて玄関内に上がり込んだ。

「ただごとじゃない」。そう思ったときにはすでに遅く、玄関の鍵を内から閉められた。同居する50代の息子は仕事に行っており、自宅には1人きりだった。

男が室内を物色していく。「なんでそんなとこ見るんですか」。声を振り絞ると、2人は豹変(ひょうへん)し、「大声出すと殺すぞ」「金はどこや」と怒声を浴びせた。

本当に殺されてしまうかもしれない。手足を粘着テープで縛られ、恐怖のあまり、言われるがままに現金や通帳、キャッシュカードの場所を伝えた。犯行時間は数十分程度。「警察に言ったら殺す」と言い残して逃走していったという。

大阪府警はまもなく実行役2人と、指示役の男1人を逮捕。実行役の男らは調べに「SNSで闇バイトに応募した」と説明したという。女性の銀行口座からは250万円近くが引き出されていた。女性にけがはなかったが、「最近まで怖くて被害について話せなかった」と振り返る。

事件前、女性宅には振り込め詐欺の電話が何度かかかってきた。強盗の犯行は息子がいない時間帯が狙われており、「家族構成や1人になる時間帯を下調べされていたのだろう」。

女性は、犯罪グループに自宅の情報が出回っている可能性を危惧し、インターホンに動画機能を加えたほか、玄関前の門扉にも鍵を付けたという。女性は「うちは大丈夫という思い込みが危ない。油断してはいけない」と訴える。

捜査関係者によると、特殊詐欺事件を巡っては資産や納税状況を調べた特殊な名簿が、強盗事件でも悪用されている可能性があるという。ほかにも、通販や店舗などで記入するさまざまな顧客リストが出回っている恐れがあるといい、大阪府警は注意を呼びかけている。

強盗や空き巣の被害に遭わないためにはどうしたらいいのか-。警備大手「ALSOK(アルソック)」は、戸建住宅では無施錠の窓から侵入される割合が高いと指摘する。短時間でも出かける際は施錠をすることが大切だ。

また、昼間でもカーテンが閉まっていたり、郵便物を大量に放置していたり、長時間の不在がわかるような家は侵入犯の標的になりやすい。「長期間不在にするときは、郵便物や新聞の配達を止めるなど注意してほしい」と呼びかける。

合鍵を複製して犯行に及ぶケースもある。家族以外の必要のない人には鍵を見せたり、渡したりしないほか、写真や動画に鍵を写さないように心がける。

一般社団法人「日本防犯学校」の副学長で防犯アナリストの桜井礼子さんは「防犯意識の高い家、高い地域だと犯人側に思わせ、犯行意欲をなくさせることが大事だ」と話す。簡単に敷地内に入れないように、インターホンは玄関横ではなく、門扉に設置するなどの対策を挙げる。

強盗の被害では在宅中に襲われるケースも目立つ。宅配業者や警察をかたる人物が来訪した際はできる限りインターホン越しに対応し、家の中に入れないようにする。

桜井さんは「襲う家を決める際に参考となるリストもある。家の情報を漏らさないためにもアンケートには安易に協力せず、高い防犯意識を持つことが大切だ」と強調している。(中井芳野、清水更沙)

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