少子化対策を巡り、子供が多い世帯ほど所得税負担が軽減される「N分N乗」方式の導入を求める声が与野党で上がっている。出生率が高いフランスが採用する制度で、子育て世帯は恩恵を受けやすい。ただ、現行制度と比較して中・低所得者には恩恵が薄くなり、格差の固定化につながる懸念も指摘される。もし導入されることになれば納税の形が大きく変化しそうだ。
鈴木俊一財務相は3日の記者会見で「高い税率が課せられる高額所得者に税制上、大きな利益を与えるなどいろいろな課題がある」と指摘し、N分N乗方式の導入に慎重な姿勢を示した。
岸田文雄首相は将来的な子供関連予算の倍増を明言し、政府は少子化対策を最重要課題と位置づける。だが、N分N乗方式は女性の社会進出を進める方針と逆行するとも懸念され、具体的検討は見送られてきた。
N分N乗方式は、第二次世界大戦で減った人口を増やそうと、フランスが1946年に導入した。個人単位で課税する日本の所得税とは異なり、対象が世帯単位になる。世帯の課税所得を家族の人数(N)で割り算した後、1人あたりの税額を算出して、家族の人数(N)をかけ直す方法だ。
例えば夫婦共働きで子供2人の4人世帯、課税所得600万円(夫が400万円、妻が200万円)の場合、現行の納税額は計47万5千円。これに対し今の所得税率のままフランスのN分N乗方式を取り入れた場合は30万7500円で、17万円ほど負担が軽くなる。
一方、夫婦のどちらか1人だけ働く片働き世帯の場合は現行の納税額が共働きより大きいため、N分N乗方式を導入した際のメリットも大きい。逆に日本は全納税者の約6割が最低税率の5%に抑えられており、N分N乗方式による中・低所得層の恩恵は限定的だ。
第一生命経済研究所の的場康子主席研究員は「格差を是正する制度とはいえないが、税負担が軽くなることで子供を1人で諦めていた世帯が2人目3人目に踏み切る動機にはなり得る」と強調。政権が「異次元の少子化対策」に挑戦する以上、これまで否定的だったN分N乗方式も前向きに検討すべきではないかと提案する。(松崎翼)