江戸時代の奈良が舞台となる。豆腐屋の六兵衛が誤って鹿を殺してしまう。当時は死罪である。ところが奈良奉行は、それは鹿ではなく犬だと言い張り六兵衛を救う。人間国宝の落語家、故桂米朝さんが得意とした「鹿政談(しかせいだん)」である
▼この噺(はなし)はマクラが長い。「奈良の鹿は、神鹿(しんろく)、春日さん(春日大社)のお使いやそうですな」。常陸国(現在の茨城県)から神様が鹿に乗ってやってきた。江戸時代には幕府から餌料が下賜(かし)されている。町の中をうろうろしても大丈夫だった。「放した鹿は大事にせないかん、はなしか(噺家)は大事にせないかん…」
▼こんな具合に、奈良にとって鹿がどれほど大切な存在だったかを強調する。現在、奈良公園に約1200頭いる鹿たちは、国の天然記念物に指定されている。「奈良の鹿愛護会」により、24時間体制で見守られてきた