高校2年生最後の全国模試は偏差値35で東京大学は当然E判定。必死に勉強しても、成績は上がらず、東大に2回落ちました。卵アレルギーがあるので、「卵入りのケーキでも食って死んでやろうか」と買いに行くほどどん底でした。
そんなとき、東大に合格した人や、頭がいい友達に「恥を忍んで聞くんだけど、勉強法を教えてくれない?」と頭を下げて聞いて回ったんです。ノートの取り方や勉強の仕方が自分とは全然違い、まねしてやり方を一変させたら成績が伸び、偏差値70で東大に合格できました。
東大入学後、偏差値35の気持ちがわかる自分だからこそノウハウや東大生の思考をわかりやすく伝えられるのでは、と家庭や学校、塾とは違う第4の教育機関を目指す「カルぺ・ディエム」を起業。多くの東大生にインタビューし、見えてきたものがあります。
東大に受かる人と受からない人の違いはスタンスの問題だと思ったんです。例えば「授業を受ける」は英語で「take a class」。「take」は「取る」という能動的な動詞で、つまり授業というのは取りに行くもの。東大に合格する子は基本的に授業後、質問に行く。聞きたいことを聞き、参考書を読んでインストールするんだけど、問いを立てて自分の意見も言う。能動性、そこじゃないですかね。
家庭環境もあると思います。東大生の親は「勉強しなさい」と言わないという話がありますが、全く言っていないわけではなく「なぜ勉強しないの?」と聞いていることが多い。一つ一つのやり取りで「なぜ?」と聞くきっかけが親から適切に与えられた子はコミュニケーション能力に差がつくのではないでしょうか。
東大生と街を歩くと面白いですよ。「なぜここにコンビニがあるんだろう」「ソーラーパネルが置いてあるけど採算はとれているのか」とかずっと考えている。実際にそういう思考力を問う問題が入試に出ている。疑問に思うためには知識もやっぱり必要で実践は難しい。うちの会社では全国の学校でそういう授業もしています。
僕が東大を目指したきっかけは、高1の担任の言葉でした。いじめられていた僕に、先生は「お前はこのままでいいのか」「何かを成し遂げようとか、何かをやってやろうという気概がない。このまま生きていくのか」と聞きました。僕の答えは「いいんじゃないすか」。そうしたらめちゃくちゃ怒られた。
人間は誰でも「なれま線(せん)」という1本の線に囲まれている。幼い頃なれると信じていた職業は、成長とともに「なれないもの」に変わり、大人になるにつれ、なかったはずのなれま線が作られる。僕はその線がめちゃくちゃ近くにある人間だといわれ、「その線を超えるために高い目標をもって頑張ったらどうだ」と説教されたんです。
妙に納得して、自分は何をすればいいのか聞くと返ってきた言葉が「東大へ行け」でした。スポーツと違い、勉強は頑張っただけ結果が出るのだから東大なら行けるだろう、と。そこから勉強を始めたんです。
2度の失敗で追い詰められたとき、本当は東大に合格したいわけじゃないと気付いた。受かりたいわけじゃないけど、「なれま線」の中にいる自分を変えられないのは嫌だなあと思って。それが今の僕を作っている気がしますね。
本の執筆や教育事業に取り組むのは、(ドラマの脚本監修を務めた)「ドラゴン桜」みたいに東大に合格する人間がいっぱい増えて、世の中がどんどん変わっていけばいいなと思うからです。僕よりすごいやつは東大にいっぱいいるし、恐らく今後も僕よりすごくて東大に行けるやつがいる。彼らが東大に入ってまたいろいろ変えてくれるんじゃないか。僕は少なくとも低い偏差値からでも東大に合格できることを証明しておいた。やりたい人はみんな頑張ったらいい。そんな気持ちです。(聞き手 木ノ下めぐみ)
◇
にしおか・いっせい 1996年3月生まれ、東京都出身。偏差値35から2年間の浪人生活を経て東大模試全国4位となり、東京大学へ。2020年に勉強のノウハウを発信する「カルぺ・ディエム」を起業。著書『東大読書』『東大作文』『東大思考』(いずれも東洋経済新報社)はシリーズ累計40万部のベストセラー。